第5話
六月七日。
私たちは、特別な一室に集合していた。
手前の部屋と奥の部屋、ガラス一枚に隔てられた二つの部屋で構成される実験室だ。私たちがいるのは手前の操作室であり、透明なガラスの向こう側に置かれているのが、ブラックホール発生装置。通称「タイムマシン試作一号機」だった。
最終的には、生きた人間を過去へ送り込みたいわけだが……。その前に実験動物で安全性を確かめる必要があるし、そんな動物実験もまだまだ先の話。まずは無機物からということで、今回は三十センチほどの黒い立方体を使う手筈になっていた。
「でも、本当に大丈夫かなあ? もしも計算以上の空間爆発が起きたら、操作室の俺たちまで巻き込まれて……」
「おい、失礼だぞ。教授の想定に間違いなんてあるわけない!」
「しっ! お前たち、黙れ!」
ざわめく学生たちの声も聞こえてくる。
「そうだよな。俺たちまで巻き込まれて過去へ行けるなら、むしろ成功じゃないか」
という呟きは、私の隣からだった。非常に小さな声であり、他の者には届いていなかっただろう。
「では、始めるぞ」
教授の厳格な声。
その瞬間、私の脳裏に浮かんできたのは、実験が失敗する光景だった。
「駄目! 中止して!」
思わず叫ぶが、間に合わなかった。
教授はスイッチを押してしまい、「タイムマシン試作一号機」が、ボンッという大きな音を立てる。
同時に、私たちの視界は黒く歪んだ。
「わっ!?」
「何だ、これ!?」
大騒ぎする学生たち。
まさにそれは、私が予知した通りの状況であり……。
「引きずり込まれる! まさか、私たちまで……!?」
教授の驚きが耳に入った直後、私は意識を失うのだった。
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