第105話 影山の望み

 苛つく美化を見て、へらへらしていた影山映莉の顔は、うっとりした表情へ変わっていく。


「僕がすべてを白状した……君は優しく僕を抱きしめてくれたよね……嬉しかったなぁ♡」


「あ、あれは影山が……泣いてくっついてきたから……仕方なく……」

(トランスなんとかなんて知らなかったしッ! ちょ……って事はっ?)


「僕はあの時ね……君のおっぱいの柔らかさとぬくもり、それとくそエッロい匂いに包まれて……最高のエクスタシーを感じていたんだよ♡」


「や、やっぱりッ! さ、最低ッ! 私の気持ちをなんだとっ……」


 2月25日……影山映莉がすべてを白状し、美化に泣いてすがった、あの時。影山映莉は反省も後悔もしてはいなかった。


 ただ……好きな女の子のおっぱいの感触と匂いで、とろけんばかりに感じていたのだった。


「あの時ほど男の体が欲しいと思った事はなかったよッ! 思いっきり勃起して、思いっきり射精してみたかったッ! た、たまんないんだろうなぁっ♡ みーちゃんで精子ピュッ、ピュッ♡」


「か、影山……こ、こわいよ……もう、やめて……やめてよ……」


「や、やめないよッ! だって! この数年の努力がついに……報われる日が来たんだからさあッ!」


 そして、影山映莉は身動きの取れない美化に近づき、耳元で囁いた。





「僕はね……今日、死ぬんだ……!」






「んなっ……!?」


 影山映莉のその言葉に嘘はない。


 美化は直感でそう感じた。


(両親とも……殺してるって事だよね? そ、それなのにさっき……影山はって言ってた……自分も死ぬから? そういう事っ? マジでヤバまるッ! ど、どうしようっ……!)


 影山映莉は父親の机に座り、そしてスラリとした足を組み、言った。


「ねぇ、渕山美化さん。僕と最後に将棋を指してくれないかな? それが望みなんだ。ダメかな?」


「将棋? ほ、本気で言ってんの?」


 今のこの状況で将棋を指すなど正気の沙汰ではない。しかし、断ったらなにをしでかすか分からないを、今の影山映莉はまとっている。


「わ、分かったよ。指す……」


 美化は承諾さぜるを得なかった。

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