第102話 自業自得

 『あの出来事』


 影山映莉の過去に起きたが、彼女に……そして、彼女の人生に……大きな暗い影を落としてしまったのだろうか?


「何があったの? 密かな恋だったんでしょ?」


「そうだね。密かな恋だった。でもある日……僕は気づいちゃったんだ。その好きな子に触っても、抱きついても嫌がられないって事にさ」


「影山の見た目が女子だから……?」


「そうなんだよ! 女子同士のちょっとしたスキンシップで済まされるのさ! もう毎日が最高だったよ! 学校になにをしに行ってんのか分からないぐらいにねっ!」


「エロし放題……って訳ね。ないわ〜……」


「でも……その幸せも小5の夏で終わってしまったんだ」


「小5の……?」


「ああ。いつもみたいにその子を触っていた時だった……そんな自分に1人の女子が言ってきた……」


「な、なんて……? エロッ! とか? やめんかいっ! とか?」





「あんた、でしょ? って……」






「レ、レズ……」


「その一言でクラスはどよめいた。みんな『そういえば……』みたいな事をヒソヒソ話しだした。もうどんな弁解をしようが無意味……子供は残酷だよ。たちまち僕は孤立した。自業自得。それを自覚してたから、その状況を受け入れて学校生活を送ったんだ」


「そんなことが……」

(でも、確かに自業自得やな〜)


「そんな日々が一年ほど続き……限界が近くなってきた僕は、親に相談する事にした。僕はどうしたらいいのか、明確でなくてもいい……愛情のある言葉で導いてほしかった……なのにっ!」


 影山映莉の顔が怒りに満ちたものに変わる。それも美化が初めて見る顔だった。


「なのにさっ!! 両親揃って僕をかたくなに受け入れようとしなかった! 女の子らしくいたらそれでいいんだとっ! バカな事を言うんじゃないとっ! 外で絶対そんな事は話すなとっ! とてつもなく理解のない親だった。まぁ、しょっちゅう仕事で海外に行ってしまっていたし、親子関係は希薄きはくだったから、期待した自分が愚かだったと……怒りを閉じ込めたよ」


「そういうことだったんだ……」


 影山映莉が初めて美化の家に来たあの日……鳩殺しの件を追求された影山映莉は涙を流して『自分が嫌いだ』と言った。


 そして、原因の一端いったんに親が関係している事を匂わせていた。それは嘘ではなさそうだ。


 美化は、今の影山映莉の話を聞いて、なんとなく掴めてきていた……彼女の闇の正体が。


「そして、小6の7月30日……僕は親への反発心でを起こした」


「それが……あの?」


「男の子の服を買った……そして坊主になる為に床屋へ行った。でも、どこに行っても坊主にはしてもらえなかった。だから出来る限りのショートカットにしてもらって……あとはさっきと同じ。自分で……ね」


「はぁ……」


 美化は溜息をついた。


「そして、僕は初めてとして街に繰り出した。そこで君に出会う……渕山美化さんにね」


「あの七星ななつぼし百貨店の将棋大会って事ね?」


「そう……たまたまだった。参加者が少なかったみたいで、飛び入りでも参加できたんだ。将棋はクラスの男子がよくやっててさ。自分の中で男の子っぽい事のひとつだったから、とてもやってみたくなってね」


「あの日……初めて指したの?」


「そうだよ。そしたらさあっ! 初戦の相手がさあっ! かわいい女の子で一目惚れしちゃったんだっ♡ あははっ!」


「そ、それが……あたしって事ね?」


「そうだよ〜♡ 小6の時のみーちゃん……めっちゃかわいいのに……すっごく気が強くて……そのギャップにさぁ……僕ちゃん見事にやられちゃったわけよ♡」


 影山映莉は、机に飾ってあった向日葵の種の袋を手に取って話を続けた。


「みーちゃんは僕に勝った後も勝ち続けて優勝したよね。僕はずっと君の姿を見ていたんだっ♡」


「そ、そうだったの? 全然気づかなかったわ……」


「そして君は、表彰式で賞状とトロフィーを貰って壇上から降りてきた。そこでっ! 僕のは決定的なものとなるんだよねっ♡」


 影山映莉は、手に持った向日葵の種の袋を胸に押し当てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る