第101話 T
目の前の信じられない光景。あの可愛く、美しい影山映莉が丸坊主で目の前に立っているのだ。
美化は声を絞り出して言った。
「か、影山……いきなり丸坊主とか……何してんのっ!? それ見て私が何を思い出すっての? 影山の坊主を見て……」
そこまで言って美化は固まった。
「あっ! みーちゃんのその顔っ! 思い出したっ!? ほらっ! 僕だよっ! 僕っ!!」
「あ、あ、ああ、ああっ……あれ、あれが? う、嘘でしょ!?」
美化はハッキリ思い出した!
小学6年の夏休みを!
あの将棋大会をっ!!
第74話「もうひとりの影山」より
「もう! 分っかんないよっ!」
そう言いながら寝返りを打つと、棚に飾られたトロフィーが目に入った。
「懐かしい……」
それは、美化が小学6年の時の夏休みに、町の百貨店で
はっきりいって美化の相手になるような小学生はその大会にはいなかった。
ただ、
1人だけ実力とは関係なく、美化の頭に残っている『男子』がいた。
「そういえばあの男子も確か『影山』って名前だった様な気がする……」
初戦か2回戦だったかは忘れてしまっていたが、その影山と言う男子はヒョロっとして丸坊主で、緑色のポロシャツにジーンズの短パン、
何年生だったかも忘れてしまったが、とにかくめちゃくちゃな指し回しで、美化は変に
(このド素人ッ! 私に恥かかせるなんて……許せない……!)
と、思うぐらいだったのだ。
最終的には美化の圧勝だったのだが、
……そんなことがあったのだ。
「あ、あの、男子が……影山? ねえっ!! 本当っ!?」
「あはっ! あははっ! そうだよっ!! いやぁ〜思い出したじゃ〜ん! あっ! でも男子ってのはちょっと違うけどね!」
「ま……丸坊主の、女子?」
「そうだね。それが正解だね」
美化はやはり疑問だった。
「あの時……女子なのになんで丸坊主にしてたの? 格好も完全に男子だったし……だから私は男子だと思っちゃったんだよ……」
「思っちゃった?……それでいいんだよ。その為に私は……あの日、あの格好で街を歩いていたんだ」
「男子に……なりたかったの? 影山は……」
「う〜ん……みーちゃんはLGBTって知ってるかなぁ?」
「そ、そのぐらい私だって知ってるよ! ゲイ、レズビアン、バイセクシャル……あれ?……Tってなんだっけ?」
「あら? そこを1番分かってて欲しかったなぁ〜」
「ごめん……」
「Tはね、トランスジェンダーだよ! 覚えてね。みーちゃん」
「トランス……ジェンダー?」
「私は……いやっ! 僕はねっ! 生まれてからずっと男なのにっ……体が女の子なんだ。分かるかな?」
「な、なになに? 影山は男……? でも女……?」
「分かりやすく言うと……影山映莉という着ぐるみの中に……男子がいる……どうかな?」
「はぁ……なるほど。じゃあ二重人格ってのとは違うんだね」
「そう。違う。僕は1人……二重人格じゃないよ。かわいい女子高生を演じてはいたけどね」
「え、演じる? そ、そうだとしてさ……私はどうすればいいわけ? 教えてよ。影山……」
「別にみーちゃんは何もする必要はない。ただ僕はね……君に伝えたい事があるんだよ」
「影山が……私に……?」
「みーちゃんと出会う事になる小6の夏休み……僕は親と喧嘩をした。もちろん……この体の事でね」
「親に言ったの? 小6の時に?」
「言ったね。とてつもない違和感と、その時の状況に耐えられなくなってね……」
「その時の? 状況?」
「僕が違和感に気づいたのは小学1年の時。初恋はクラスのかわいい女の子だった。でも、自分……影山映莉も女子として校内ではカテゴライズされていた。小1なりに混乱したよ。女の子は男の子を好きになるはずなのに……ってね」
「小1じゃ……LGBTなんて分からないもんね……」
「さすがにLGBTの概念はその時の僕にはなかった。ただ……自分が他のみんなとは違うって事だけは……早い段階で悟ったよ。でも僕はね、その子の事を密かに想い続けたんだ。あの出来事が起きるまでは……」
「あの出来事……?」
影山映莉の幼少時代に何が起きたというのか?
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