第100話 バリカン

 影山映莉の机の小物置きスペースに不自然に飾られた向日葵の種の袋。それに貼り付けられた付箋には2016年7月30日と書かれていた。


 そしてさらに、付箋にはこう書いてあった。

















 『渕山美化さんより』





(わ、私っ!? なんで? 2016年て……私はまだ影山に出会ってないしっ! しかもっ、向日葵の種? 私は花なんて残念ながら全く興味ないしっ! どういう事?)


 すると、影山映莉が戻って来る足音がする。


「みーちゃん! おまたせ〜! お寿司とったんだよぉ〜! みーちゃんお寿司大好物だからっ!」


「おおっ!! すごーい!イクラいっぱいあるぅ〜♡」

(と、とりあえずは、食べまるっ♡ そ、それから……聞いてみようっ!)


「特上だからね! 食べて食べて!」


「やったー♡ いっただっきまぁす!」


 ふたりは特上寿司を次々と口へ運んでいった。


「んまぁい♡ イクラ最高っ!」


「大トロもとろけるよぉ」


 ものの20分ですべてを平らげた。


「か、影山……最高だったよ♡」

(ひ、久しぶりのお寿司……堪能♡)


「よかった、よかった! みーちゃんの喜ぶ顔が見られて私も最高だよ!」


 そしてこの流れにのって、美化は影山映莉に聞いてみる事にした。


「あのさぁ、影山……」


「なあに?」


「あの外に咲いてた、季節外れの向日葵って……その机に置いてある種を蒔いて育てたの?」



「……あっ、見てくれたんだ」



 影山映莉が今まで一度も見たことのない表情になった。



 いや……違う。どこかで……だいぶ前に……見た事があるっ!!


 美化はそう思った。




「あの……目に入ったというか……その付箋もさ、私の名前が書いてあったから気になってさ……私、向日葵の種なんて影山にあげたかなぁ?って……2016年とか……日付もおかしいしさ」


「ふふ。その付箋は……昨日貼り付けたんだよ。間違えてなんてないよ」


「昨日っ!?」


 美化は全く影山映莉の意図が読めなかった。何が言いたいのか。


「みーちゃんはすっかり……忘れてしまっているみたいだね……」


「忘れる? 私が何を忘れてるっていうの?」


 すると、影山映莉から笑顔は一瞬で消え去り……無表情で美化の顔を覗きこんでこう言ったのだ。

























の事をだよっ!!」








「え、ええっ……!? ぼ、僕? 影山っ……なにを?」


 美化は意味が分からず鳥肌がたった。影山映莉はスッと立ち上がった。



「その向日葵の種はね。間違いなく……君がくれたんだよ……渕山美化さん」


「え? か、影山……?」


 影山映莉の雰囲気がガラリと変わった。いや、そういうレベルではない。



『別人』



 美化はそう思った。


「あれ? なかなか思い出してくれないね。困ったなぁ……でも、これで思い出すんじゃないかなぁ……?」


 そう言うと、影山映莉は机の引き出しを開けて、ある物を手に取った。




「ちょっ! 影山ッ! なにすん……っ!?」



 ブィィィィィィィィィィィィィン!


 バリバリバリバリッ……!!



 なんと、影山映莉が手にしていたのはバリカンだった!そして自らの髪を刈り始めたのだ!


 美化は止めようと一瞬腰を浮かせたが、すぐに諦めペタンと座り込んだ。


 元々ショートの影山映莉の髪は……あっという間に坊主になってしまっていた。


 美化は言葉がでなかった。


(なに? なに? なによっ!? 影山はどうしちゃったの? これで私になにを思い出せってのっ!? ヤバまるなんだけどっ!!)


 頭の中には疑問しかなかった。


「どう? 似合うかな? あはは」


 床には影山映莉の髪が不気味に散乱していた。

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