第99話 影山の部屋

「うっ……」


 影山家に足を踏み入れた瞬間、なんとも言えないほこりくさいにおいが鼻をついた。


「みーちゃん、これ履いて」


 出されたスリッパにも、少し埃がついている。無論、廊下の隅々に埃が溜まっている。



「影山家っ! どんだけ掃除しない派よっ! 『埃で人は死なない』が家訓だったりするわけっ? あははっ!」




 的な感じで、美化はツッコミたかったが……出来なかった。


 なぜなら井戸上ミサから託された影山映莉のあのスマホに宿っていた禍々まがまがしさを、この家全体から感じるのだ。


「か、影山、ごめん! 着いてばっかでなんだけど、トイレ貸してくんない?」


「いいよ〜。そこだよトイレ」


 玄関を上がってすぐ右のドアがトイレだった。


 バタンッ!


 美化はトイレに入るとすかさずスマホを取り出した。通話は切れていた。そして、よく見るとトイレも掃除がされている形跡がない。


 ツンッ!


「うっ……」

(ど、どういうことやねんっ!? ここが影山の家っ? うそでしょ? 汚なすぎるってばっ! 独身のおっさんだってここまでじゃないでしょ!?)


 美化は現実を受け入れられなかった。そして、サイレントモードに切り換えカルチェにLINEを送った。


[ヤヴァイかも知れません]☆


 それだけ送ってトイレを出た。



 ジャ──────ッ!!




「おまたせ!」


「じゃあ……私の部屋、行くね!」


「うんっ!」


 美化は出来るだけ明るい声で返事をした。それでも鳥肌がゾワッとでるのは抑えられなかった。


 キッチン、リビングを横目に廊下を進む。突き当たりを右に曲がり、扉のある部屋を2つ通りすぎると1番奥に影山映莉の部屋はあった。


「ここが私の部屋だよ。入って」



 ガチャ……




「こ、これが、影山の……!」













 部屋に入ると、とてもいい香りに満ちていた。広さは美化の部屋の倍はある。白くて大きなソファー、50インチはあるテレビ、そして勉強机。


 それとは別にノートパソコンが置かれた机、おしゃれなクローゼット、ガラスのローテーブル、奥にはセミダブルのベッド。


 無駄な物はなく、掃除も行き届いている。シンプルで洗練された部屋だった。


(ど、ど、どーゆー事っ? ここだけ別世界じゃん! 怖い怖いっ!)


「じゃあ、みーちゃんはソファーに座ってね!」


「うん……ありがと」



 美化は恐る恐るソファーに座った。






 その時ッ!





 ピンポ……ビビ、ビビ、ビッ!






「な、なにッ!? 何の音ッ!?」


「あー……うちインターホン壊れてるんだ……来た来たっ!」


 そう言うと、影山映莉は笑顔で部屋を出て行った。


(こ、この家、奇妙過ぎだしッ! 影山の部屋だけめちゃ綺麗で、あとは廃墟みたい……どうなってんの……?)


 美化はあまりに不思議過ぎて、部屋の中を更に見回した。


(ん? 影山の机の上……なにあれ?)


 影山映莉の勉強机に飾ってあるひとつの物に目がいった。


(向日葵の種の袋? さっき外に咲いてたやつなのかな? んっ? なんか付箋ふせんが付いてる……『2016年7月30日』? 今が2022年3月だから……6年ぐらい前?)


 そして、を読んで美化は驚愕する事になる。

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