第86話 マジ卍

 影山映莉は渕山家に来たあの日以降、学校を休み、まったく姿を見せることはなかった。


 今日は3月1日。美化の通う学校では卒業式がり行われていた。


(影山、どうしちゃったの? LINE送っても全然既読にならないし。なにがなんだか……)


 美化は最悪の事態まで想像してしまっていた。


 そして影山映莉の心を救うつもりが逆に追い詰めてしまったのではないか?という慙愧ざんきの念にかられていた。


 卒業式もとどこおりなく終わり、結局今日も影山映莉とは連絡がつかないまま、夕方になっていた。


 あの日、充実した気持ちはただの独りよがりだったのか?


 自己満足に過ぎなかったのか?


 あれから数日が経ち、美化の心にはぽっかり穴が空いてしまっていた。


 ベッドに横になり、虚しさに押しつぶされてなくなってしまいそうな、思い描いていた影山映莉との『理想の関係』を必死に守っていた。



「是露先生……」



 美化はぼそっと呟いた。


 それは当然だった。


 実は昨日会えるはずだったのだが、美化の体調不良によりお流れになってしまっていたのだ。


「もうッ! なんで昨日に限って具合悪くなんのっ! 今日でよくない? あームカつくッ!」



 ピコッ☆


 その時、美化のスマホにLINEの着信が入った。


「影山っ……!?」


 美化は飛び起きてスマホを見た。


「あっ♡」


 それは椿原是露からのLINEだった。


[美化ちゃん、具合どう?]


「仕事中にわざわざLINEしてくれるなんて……超優しいっ♡」


[よくなってます。昨日を返して欲しいですよ。せっかく先生に会えるはずだったのに……ぴえん]ピコッ☆


 すると、是露から意外なメッセージが来た。


 ピコッ☆[じゃあ……今から会おうか?]


「えっ♡ どゆこと!? 今って仕事中じゃないのッ!? え? え? 嘘ッ!? ちょっと! ちょっと!」


 戸惑いながらも美化は、久しぶりにテンションが上がった。ドキドキで返事を返す。


[先生仕事は? サボり?w]ピコッ☆


「ヤバい……どうしよ……マジで今から会えるの? あーマジ卍♡」




 ピコッ☆[今日は通院でお休みもらってたんだ。このくらいには終わるのわかってたけど内緒にしてたんだ。サプライズしようと思って。昨日会えなかったし……どうかな?]


「通院……? え……なに……?」


 美化は是露が重い病気なんじゃないかと心配になった。それも後で聞こうと決めて返事をした。


[今すぐ行きます。昨日会えなくてめっちゃ落ち込んでたから……すごい嬉しいです♡」ピコッ☆


 LINEを打ちながら目には涙が溜まっていた。


 ピコッ☆[じゃあいつでもおいで! 待ってるね! 気をつけて来なよ!]


「やったあっ! うー♡ 嬉しすぎるぅ〜! 是露てんてー罪深いにも程があるよ〜♡」


 美化はベッドに寝転んで、体をゴロゴロさせて喜んだ。


「いっ、1秒も無駄にできんしッ!」


 美化は部屋着から私服に素早く着替えて家を飛び出した。

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