第85話 嘲笑

「えっ〜? なんでそうなるの〜? やめてよ。みーちゃん」


 影山映莉は見るからに不機嫌な顔をした。しかし、美化は見逃さなかった。一瞬ひきつった口元を。


 宮古田カルチェ程ではないものの、美化も割と表情を読み取ることには長けていた。


「私は別に影山を責めるつもりはないんだよ。何がそうさせたのか、その原因というか……」


「ちょっと待ってほしいんですけど! みーちゃん本気で言ってる? 笑えないよ。確かにあの場所は鳩猫バラバラ事件の公園だった。私はみーちゃんがなにか犯人の手がかりでも掴んだのかと思っていたんだよ」


「犯人の手がかり? じゃあ、影山はやってないってこと?」


「あ、あたり前だよっ! 本当にやめてってばッ!」


 影山映莉がめずらしく、声を震わせて言った。


「影山、みつばち公園ともう一件、鳩殺しがあった別の公園があるの。知ってる?」


「もう一件? あっ、あぁ〜知ってるかも! 10羽だったかな? 頭のない……」


「知ってるね。実はそこの公園にさ、犯人は落としていったんだよ。私物を……」


「………………」


 明らかに、誰が見ても分かるレベルで影山映莉の顔はうつろだった。


「そして、がここにあるんだよ」


 そう言って美化はカバンの中からハンカチで包んだスマホを取り出し、そのままテーブルの上に置いた。


 コト


 影山映莉は、それを光のない真っ暗な瞳で凝視している。その形状、大きさから推測できているのであろう。


 それがあの日なくした……だと。


「な、なんで? みーちゃんがそれを、な、なんで?」


 影山映莉がさらに声を震わせて言う。


「これはね。ある人に託されたんだよ。『助けてやれ』って。影山、なにが、そうさせちゃったの?」


 ミサに託された『最終兵器』


 その効果は想像よりも絶大だった。


 美化はこれで影山映莉の事を救える。友として初めて力になれる。そう確信した。


 目の前の影山映莉は力なく涙を溢していたからだ。


 『よかった』


 言い訳や詭弁きべんを振りかざすことなく、本音を語ってくれる。これからも真の友として寄り添っていきたい、支えあっていきたい、そう思った。


「みーちゃん。ごめん。そうだよ、全部、私が、私がやったの。私、なの……」


「自分が嫌い? 影山みたいな完璧な人間が……!?」


「やめて。全然完璧なんかじゃないから。完璧だなんて思われたくもないッ!」


「ご、ごめん! 影山……」


「ううん。いいの。みーちゃんはなにも悪くない。ただ、がね……」


「親? お父さんとお母さん? なにか問題なの?」


 美化は心から心配して問いかけた。


「ごめんね、みーちゃん。今は、話したくないの……」


「うん。分かった。今は無理に聞かないよ。また、話せる時が来たら聞かせてほしいけど」


「ありがとう。みーちゃんはやっぱり優しいね。だよ」


「私は、もっと早く影山の苦しみに気づいてあげたかったよ」


「みーちゃあぁぁんっ!!」


 影山映莉は『美化の胸』に顔をうずめて泣いた。美化も影山映莉の頭を撫でながら泣いた。



 こうして、嘘告白、鳩殺し、両方の問題はひとまず解決した。どちらも美化は自分の優しさで包み込んで、さらに影山映莉をより良い方向に連れて行きたい。そう思った。




 1時間ほどして落ち着きを取り戻した影山映莉は、美化と握手をした。


 そしてにっこりと微笑んだ。


「本当にありがとう。みーちゃん、こんな私だけど、これからもよろしくね……」


「なに言ってんの。こちらこそだよっ! 私なんかでよかったらさ、どんどん頼ってよ! ね?」


「うん……」




 美化は帰る影山映莉と手をつないで階段を降りた。


「まあ! 2人とも仲のいいことっ!」


 祖母のその言葉が、美化は恥ずかしながらも嬉しかった。


「お邪魔しました」


「影山さん。またいつでもおいでね」


「はい」


 影山映莉と一緒に美化も外に出た。


「じゃあ……またね!」


「うんっ! また明日っ!」


 影山映莉は自転車に乗り、帰って行った。




「ふう〜っ!」




 美化は心地よい溜息をついた。


「よ、よかった!」


 そして、小声で現状を喜んだ。


(これから私は、影山の力になるっ!)


 渕山美化、17歳。

 恋も友情も全力だった。























 ……しかし、



















 自転車に乗り、帰る影山映莉の顔は……























 そんな美化をあざ笑っていた!!



「みーちゃぁぁん! やっぱりいいわっ! 君は最っ高っだよっ! あっははははははッ!」

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