第84話 嘘告白の真意

 さっきまでニコニコしていた影山映莉の顔が、座った途端、今まで見たことのない冷たい表情になった。そして、美化に問いかけた。


「で、あった? 私を家に呼ぶなんてさ」


「そうだね。何から話そうか」


「うんっ! 何から話してくれるのかなぁ〜? わくわく!」


「わくわく?」

(こんのっ! 人の気も知らないでへらへらしてっ!)


 コロコロ変わる影山映莉の表情に、美化はカチンときた。


「あ、あのさぁっ!」


 と、言ったところで祖母がケーキを持って部屋に入ってきた。


「さっ、影山さん。食べてねぇ」


「わー! かわいいケーキ。いただきます〜♡」


「はいはい! おばあちゃんは早く下に降りて下さいね〜!」


 美化は祖母を急かした。


「なによ〜。はいはい。分かりましたよ〜! じゃあ影山さん、ゆっくりしていってね!」


「ありがとうございます」


 祖母が背を向け、部屋を出た瞬間。影山映莉はかわいい抹茶のケーキを雑に半分に割って、口に放り込んだ。


 美化が呆気にとられているうちに、影山はさらに残りの半分も口に突っ込んだ。



 ムシャ、ムシャ……



「影山……」

(こ、今度はまた無表情ときたか……)


 口の周りについたクリームを制服の袖で拭き取り、影山映莉は真っ黒な瞳で美化を見つめて言った。


「あー、おいしかった。で、なんだっけ?」


 美化はついに影山映莉の裏側に迫る質問を投げかけた。


「影山。佐藤先生に告ったって、本当なの?」


「えっ?」


「佐藤先生だけじゃない。本当は誰にも告ってないよね?」


「えっ? えっ? なんでそんなこと言うの?」


「望月先輩、万亀君、そして佐藤先生。全員に確かめたんだ」


「へえ。なんのために?」


 影山映莉は少し苛立っている。


「なんで影山を振ったのか、知りたくて……」


「えっ?」


「かわいい影山に告られたら、他に好きな人がいたって心が揺らがないもんなのかなぁって、そう思ったんだよ」


「そ、それで聞いて回ったっていうの?」


「うん。おかげで知っちゃった。全部うそだって……」


「……………」


 影山映莉は押し黙っている。


「ねえ。なんで私にそんな嘘をつく必要があったの? 教えてよ! なにが……」


 よく見ると影山映莉は満面の笑顔になっていた。


「しょうがないなぁ〜! バレちゃったか〜! はい。全部白状します」


「そ、そう、じゃあ、教えてよ」


「実はね、私はみーちゃんと『親友』になりたかったのっ!」


「えぇっ?」


「それには『恋の悩み』の相談をするのが1番っ! そう思わない?」


「えっ、ま、まぁ……」


「でもね、私には好きな男の人なんていないの。だから仕方なくだよ。分かってくれる? みーちゃんと仲良くなりたかったの! それだけっ! それ以外なにもないよ!」


「影山、まじで?」


「うん!」


「え〜……」

(どうしよう、何も言えない。せめて言えることといえば……)


 美化はベタ過ぎて言いたくなかったが、言わざるを得なかった。


「そ、そんなことしなくても、私たちは親友になれてたと思うよ!」

(言っちゃった。とほほ)


「ほんと? ありがとう! みーちゃん、ごめんね!」


「い、いいってば、びっくりしたけど」

(こ、こんなあっさり? 嘘告白は親友になる為? そっか……)


 そうなんだ、影山は自分を騙してそれを楽しむような人間じゃない。


 れっきとした理由があった。


 聞いて納得。


 美化は少し気が抜けた感はあったものの、少しほっとしていた。


 しかし……


 本番はここからである。


 ここからがシリアスなのである。


 ところが、意外にも影山映莉が切り出した。


「ねぇ、みーちゃんさ、このまえ公園に行ったとき、本当は別に話したいことがあったんじゃないの?」


「えっ!?」


「そんな気がしたの。違う?」


 あの日は気を削がれ、話す気が失せてしまった鳩殺しの件。どうやら影山映莉の研ぎ澄まされた感覚のアンテナは、そんな美化の機微ですら容易にキャッチしていたようだ。


「うん、確かに、あったよ。話」


「実はね、ずっと気になってたの。だってあの場所は……」


 影山映莉がそう言いかけたところを美化が遮る。


「そうだよ。あの場所は『鳩猫バラバラ事件』の場所だよ。気づいてたんだ」


「さすがに、ね」


「影山、本当になにがあったの?」


「え?」


 美化は唾をゴクリと飲み込んでから言った。


「あれは、影山がやったんでしょ?」

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