最終章 darkness
第83話 崩壊
家を出て10分。3つ目の信号が赤に変わり、美化は止まった。
「みーちゃん、おはよう」
影山映莉と鉢合わせた。
「おは。影山」
「今日は朝からウキウキだよ。みーちゃんの家に行けるなんて!」
相変わらず可愛い。
こんな彼女にも抱える闇があるのだ。そう思うと美化は、影山映莉と目を合わせられなかった。
「たいした家でも、部屋でもないけどそれなりにもてなしますよ!」
「わ〜いっ!」
影山映画の屈託のない笑顔。それを見て美化は思う。
(今回ばかりは是露先生の『Z』の時みたいに簡単に一件落着とはいかない。そして、今なら分かる。私が影山に対して感じていた『そこ知れぬ何か』の意味も……)
そして、学校に向かいながら会話をすればするほど、影山映莉と言う人間が『ハリボテ』にしか見えなくなってしまっていた。
告白が全部『嘘』だったと言う事実に、美化の中で絶対的存在だったはずの影山映莉は、完全に『崩壊』していた。
「じゃあ、放課後!」
互いにそう言って、その他の生徒たちに紛れ校舎に吸い込まれていった。
その後の美化は、授業どころではなかった。それよりも頭の中で、影山映莉との『問答のシミュレーション』をひたすらにしていた。
あー言ったらこう、こう言ったらあー。
でも分かっていた。
将棋と同じく、自分の思い通りの局面になど、そう容易くなるものではないと。それでも準備だけはしないといけない。その一心だった。
放課後。
美化は影山映莉と合流すべく、雑談するクラスメイトの間をすり抜け、早々に教室を後にした。
いつもより駐輪場が遠くに感じる。
(勉強も将棋もパーフェクト。頭の作りが違う。そんな賢いはずの影山がなんで? まったく理解できないよッ!)
相変わらず影山映莉に対する怯えに似た感情は心の片隅に残っている。それをかき消すように美化は走った。
廊下と階段を走り抜け、靴に履き替え、さらに駐輪場まで一気に走った。
「はぁ、はあ! はぁっ!」
これから起こることへの不安を振り
久しぶりの全力疾走で足はガクガクしていたが、頭はすっきりしていた。
「やっぱ血流って、大事だぁっ! はぁ、はぁっ! はぁ!」
周りの生徒たちの目を気にすることなく、駐輪場の柱によさりかかって息を整える。そのままの姿勢で1分が経った頃、後ろに気配を感じた。
「みーちゃん。お待たせ」
ゾクゥッ!!
背中に鳥肌が立った。
美化はゆっくりと振り向いた。
「影山、来たね……」
「はいっ! 来ましたっ!」
「じゃあ、行こ」
ふたりは今朝来た道を戻っていく。そして、いつもなら別れる道も2人で越えて行く。美化は自宅に近づいていく中、思った。
私はひょっとしたら今、ものすごい『モンスター』を引き連れているのかもしれないと。
そして、2人は渕山家に着いた。
「みーちゃんち、素敵ー!」
「行くよ」
「はぁいっ!」
美化は気合を入れて玄関のドアを開けた。
「おばあちゃん! ただいまー」
祖母が玄関にやってきた。
「あらぁ! 可愛い子じゃないのぉ〜。いらっしゃい」
「はじめまして。影山と申します」
「あぁ〜、影山さんね! さぁさぁ、あがってちょうだい」
「お邪魔します」
影山映莉は脱いだ靴の向きをくるりと反対にし、隅のほうに置いた。
「私たち2階に行くから……」
「じゃあ、
是露のお気に入りの和菓子屋、卍門屋。やはり祖母もお気に入りだった。
「はーい。じゃあ、行くよ、影山。私の部屋は2階だから」
「うんっ!」
とん、とん、とん、とん……
階段が妙に急に感じる。後ろに倒れそうな感覚に襲われる。
「わー! すご〜い! ブルーに統一されてる〜! あははッ! ちゃんと推しのポスターも貼ってある〜!」
美化の部屋に入るなり、影山映莉のテンションは跳ね上がった。
「まぁ、座って座って!」
美化は影山映莉に促した。そして、2人はルービックキューブの乗ったテーブルを挟んで座るのだった。
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