第81話 イケメンの義務

 あまてらす鍼灸整骨院。治療師イケメン佐藤こと佐藤久遠くおん(23)は、小学生の頃からモテモテ人生を送ってきた。


 初体験は小学5年の夏休み。相手は友達のお姉さん。高校1年生だった。


 勉強も運動もトップクラス。


 校内では芸能界入りを噂される程の人気ぶりだった。もちろんファンクラブも勝手に作られていた。


 だが、彼は学生時代、芸能界入りどころか特定の彼女も作りはしなかった。周囲が勝手にちやほやしているだけで、彼は自分を見失わなかったのだ。



『完全なるナルシスト』


 彼、佐藤久遠は女よりもが好きだった。自分よりも美しい女以外と付きあう気はなかったのだ。


『それ以外の女は単なる遊びで抱いてやる。オナニーの延長に過ぎない。そこに恋心など存在はしない』


 これが佐藤久遠の女に対するスタンスであった。付き合うレベル、いわゆると思える女には、今まで出会ったことがなかったのである。


 そんなイケメン佐藤だったが、実は影山映莉には自分を超える美しさを感じていたのだった。







「で、どうしたのかな?」


 佐藤は心配そうに美化に声をかけた。


「あのっ、昨日って、影山、影山映莉って、来ましたか?」


「影山さん? 来てくれたよ! 僕が押させてもらったけど」

(映莉ちゃん。顔も可愛いけど体つきがやたらエロいんだよな♡)


「で、それだけですか?」


「ん? それだけ?」

(なにが言いたいのかな? 美化ちゃんは?)


 佐藤は首を傾げた。


「えっと、告白とか、されてないです? 影山に?」


「告白? 影山さんに? ははっ。されてたら嬉しいけど、まだ、されてないなあ」

(そういうことか! 映莉ちゃん、俺のこと好きなの? マジで? や、やりてえっ! あの美少女と♡)


「やっぱりそうですか……」


「やっぱり?」


「いえっ、ありがとうございました。それが聞きたかっただけなので!」


「そうなんだ。了解」












「すみませんでしたー! 失礼しまーす!」


 美化は自転車に乗って佐藤に謝りながら頭を下げて帰って行った。


「気をつけてねー!」


 佐藤は爽やかな笑顔で美化を見送った。


「へっ、へへへ!」

(2人とも僕のことが好きなんだね。あんまり僕のことでもめてほしくないなぁ。なんなら、2人まとめて相手しちゃってもいいよぉ♡ そうっ! それがイケメンの宿命、義務なのだから! はあ♡ 美化ちゃんも少しぽっちゃりだけど顔は可愛いしな♡ 3Pしてぇ〜!)



 これがイケメンの裏の顔。佐藤久遠さとうくおんの本性であった。


 そして、外の2人を見て是露はすこーしだけ嫉妬していた。




「はあっ! はぁっ!」

(任務完了。結局、予想通り。影山は誰にも告ってないっ! この件と鳩殺し! どう説明すんの? 影山!)


 家に向かう自転車のスピードは整骨院に行く時よりも、だいぶ早かった。帰宅し、遅くなってしまった夕飯を食べる。


「どうよ? 具合は?」


 母が美化の頭にポンッと手を置いて聞いてきた。


「あげぽよ」


「あっそう。よかったね」


「肩、だいぶヤバかったけど」


「またゲーム夜中までやってるわけじゃあないわよねえ?」


「ゲームばかりではないのですよ。私が肩こる原因はさ」


「ふ〜ん。JKも大変なわけだ」


「そーゆーことっ!」


 いろんな思いを込めてそう言うと、夕飯の焼きうどんをなんとか全部胃に収め、こたつに寝っ転がった。


(や、やばっ、めちゃ眠く……マッサージで血行がよく……なったか……ら……だ……)


 こたつの優しいぬくもりに抱かれ、美化はそのまま眠った。







「ヤバい、全然返事が来ないっ」










 その頃、ちょっとやきもちを焼いた内容をLINEしてしまった是露は、美化からの返事がこない事に焦っていた。


「年上のくせに……なんてダサい事をしてしまったんだぁ! うぅ」


 この後、是露は爆睡の美化に……4時間、放置されるのであった。

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