第78話 混乱の美化

(万亀君は卓球部ッ! 影山が言ってたしッ!)


「はあっ、はあっ、はあっ!!」


 動揺のせいで余計に息が乱れる。




 カコンッ! カコンッ!



 美化は体育館にやって来た。数人の部員が卓球の練習をしているのが見える。


(卓球部いたっ! 万亀君は? どれッ!? わっかんないっ! もうっ! しゃーないしッ!)


 美化は大きな声で言った。


「担任の先生がッ! 万亀君を呼んでま────すっ!!」


 その声に1人の卓球部員が反応し、走って美化に近づいてきた。


「先生が? なんなんです?」


「万亀君?」


「そうだけど……」


 背は175センチ。細身の筋肉質。色白で髪は短髪。爽やかイケメンだった。


「ちょっと来てっ!」


 美化は息を整えながら、万亀を体育館の外へと連れ出した。


「先生が呼んでいるんですよね?」


 万亀は早く練習に戻りたそうだった。


「間違いなく万亀君?」


「うん。間違いなく、僕が万亀まんがめだよ。僕、何か先生に呼ばれるような事したかなぁ……?」


「ひ、1つだけ万亀君に聞きたいことがあって……!」


「えっ? 用があるのって先生じゃないの?」


「ごめん! 嘘ついて! これだけ聞かせてっ!」


「わかったよ……何?」


「万亀君はこの前……2月の頭に、クラスメイトの影山映莉に……告白されなかった? って話なんだけど」


 美化は真剣な表情で万亀の目を見て聞いた。


「か、影山さんが僕に告白っ?! さ、されてないよっ……そんな、夢みたいなこと……ないよっ!」


(なに? 万亀君、影山の事好きなのッ!? って事はっ……)


「影山には告白はされてはいない。そういう事ねっ!? だってされてたら付き合うもんねッ!?」


「う、うん……だから、残念ながら告白はされてないんだ……」


(影山っ! あんた……誰にも告白なんてしてなかったじゃんっ! って事は? 佐藤先生にもしてないって事なのッ!? 昨日のあのLINEは何ッ!?)


「万亀君、ごめんね。変な事聞いて。それと練習の邪魔もしちゃって」


「かめへんよ……」


 万亀は何事もなかったかのように練習に戻っていった。


「な、なんなのよ、これっ!?」


 美化はさらに混乱しながらも、一刻も早く佐藤にも事実を確認したかった。


 とはいえ、あまてらす鍼灸整骨院は夜の19時30分まで受付をしている。まだ時刻は16時になるところ。


(佐藤先生と直接話せるのは20時頃かな? でもさらに分からなくなった……影山、私になんでそんな嘘をつく必要があるのッ? 友達だと……思ってたのに……)


 美化はできるだけ影山映莉を擁護する筋書きを考えたが……思い浮かばなかった。


 そして、今日までの日々を思い返した……。気づくと美化は、大粒の涙をポタポタとコンクリートの地面にいくつも溢していた。

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