第76話 影山のペース

「みーちゃんさぁ、やっぱり年上の男の人っていい感じ?」


 『恋バナ』


 影山映莉が話し出したのはJKの大好物だった。少しだけ美化はホッとしていた。


「ねぇ、みーちゃん! 聞いてる?」


「えっ? あ、あぁ、なんて言うのかな……是露先生の場合はさ、かっこつけないかっこよさ? 服とか髪型とか自意識過剰なガキンチョとはちょっと違うよね!」


「あー確かに服とかにめっちゃお金かけてるクラスメイトとかの話聞くと、ちょっと引くもんね!」


「そうそう。やっぱりさ、ナチュラルでいいと思うんだよね。是露先生はさ、大人おとナチュラルなんだよ♡」

(大人チュラル? 何言ってんの私……今日はそーゆー話をしたいわけじゃなくっ……!)


 それから暫く、影山映莉のペースで『大人の男』についての話が20分以上続いた……。


「でね、実は私、先週あまてらすに行ったんだ……」


「えっ? 影山も1人で行ってたの?」


「うん。佐藤先生、指名で……」


「へえっ! それでそれで……」


「いっぱい話したよ。やっぱりいいよ……佐藤先生♡」


「よかったじゃん! ようやく失恋の傷が癒え……」


「で、今日『告白』しに行こうと思うんだぁ〜♡」


「えぇっ? 今日? 告白っ!?」


「みーちゃんと一緒だよっ! やっぱり話が合うと好きになっちゃうもんだねぇ〜♡ ふふっ♡」


「あっ……あぁ、そうだね、私も残ネルの話がきっかけだったし……」


「うまくいくといいなぁ。今日こそはっ♡ はぁ……」


「だ、ね。がんばっ! 影山っ!」


「佐藤先生の仕事終わりを直撃したいと思いま〜すっ!」


 そう明るく話す影山映莉に、美化はなんとなく違和感を感じた。


 もし、自分が『是露にフラれていたら?』と考える事ができたからだ。


 そんな簡単にまた好きな人ができて、またすぐ告白して……そうなるだろうか?と。


(私なら是露先生に告白してフラれたら……次の恋なんていつできるかわからないよ。立ち直れない……)


「ねぇ、みーちゃんの話ってなんだった? 私の話ばっかりしちゃってごめんね!」


 美化は鳩殺しの件を話そうと意気込んでいたが、なんだか話す気が失せてしまい、慌てて適当な話をした。


「えっと……じ、実はさぁ、わ、私、煙草が吸ってみたいなーっなんて思っちゃってさ!」

(にしても、ひどい嘘……)


「えっ? 煙草っ!?」


「う、うん。実は是露先生が結構、煙草にこだわっててさぁ。か、影山は吸った事ある? あ、あるわけないかっ……あははっ」

(もう、今日は帰ろう……寒くなってきたし。終わり終わり)





「煙草? なくはないよ」







「えっ?」


 影山映莉の意外な返答に、美化は一瞬固まった。


「最近はね〜煙草だけじゃなくてねぇ〜『Z』なんかも吸うよぉ〜!」


「Z……?」


「みーちゃん知らないの? 品種改良大麻Zっ! 最高だよ♡」


「影山っ! 何言ってんのっ! やめてっ!!」


 美化は過剰に反応してしまい、つい、大きな声を出してしまった。


「なになにっ? どーしたの!? 冗談だよっ? みーちゃん、絶対笑うと思ったのにぃ……」


「ご、ごめん……そうだよね。最近、疲れてたから……。煙草とか……聞かなかったことにして」


「煙草なんてみーちゃんには全く似合わないよっ! 20歳になっても吸っちゃダメだからね!」


「はい! 影山先生」


「じゃあ私、着替えてあまてら行くからっ! 帰るね!」


「うんっ! うまくいくことを祈ってるからっ!」


「ありがとう〜! じゃあねー!」


 影山映莉は美化に微笑みかけ、意気いき揚々ようようと帰っていった。




「はぁ、結局今日はだめだった……てゆーか……鳩殺しとか……聞ける気がしないよ……」


 美化はぐったりとベンチにもたれかかった。























 その時











 家に向かう影山映莉は……





 たぶん、












 美化が今まで見た事のない表情をしていた。 

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