第75話 みつばち公園へ

「そろそろ影山にLINE……しようかな……」


 スマホを手に取り、明日の放課後、会って話がしたい……とLINEした。


 すると、返事はすぐに来た。


 ピコッ☆[了解♪ 私もちょうど話したいことがあったから聞いてね! じゃあ明日ね!]


(影山も話したいこと? なんだろう? すべては明日だっ!)













 翌日。


 『新世界』の調べと共に起床。


 久しぶりに頭がすっきりしていた。


「やっぱり私に将棋は欠かせないな♡ 体調がいいもんね……」


 顔を洗い、歯を磨き、モーニングルーティーンを終え、1階へ。


「おはよう。美化」


 祖母の優しい声に癒される。


「おはよう。おばあちゃん」


 美化は定位置に座り朝食を食べた。


(影山……今日のみーちゃんはいつもと違うからね……ふう、覚悟きめなきゃ)


 味噌汁のなめこをトゥルンと食べ終え2階に戻る。


 そして、登校準備を整える。


「これも持ってかないとだね……」


 ハンカチに包んで、影山映莉のスマホをカバンに入れた。


「よし! 出発……!」


 鳩殺しの話を出したら影山映莉はどんな顔するのか…?今までに見たことのない、ひどく歪んだ表情をするのだろうか?


 どんな時も可愛く、美しく、そんな彼女に時折ときおり見惚みとれてしまう自分もいた。その自覚も十分あった。


 だが、本当なら見たくない、友の痛々しい姿も、ちゃんと受け入れる覚悟はできていた。


 美化はミサに託された、影山映莉のスマホが持つ意味を、ひしひしと感じながら学校に出発した。


「いってきます!」


 その声は力にあふれていた。


 例の3つ目の信号の赤で止まるが、影山映莉の姿はなかった。できれば放課後まで、会わずにいたかったのでホッとした。



 学校に着き、教室に入る。


 そして授業をなんとなく受ける。


 休み時間になると、女子たちはたわいのない会話と愛想笑い、男子達はくだらない話とバカ笑い……そんな中で美化は思った。


(あんた達って悩みあんのっ?)


 自分の置かれている状況と、かけ離れたところで生きているであろうクラスメイト達をストレスに感じながら放課後を迎えた。




 美化は影山映莉と合流すべく、教室を足早に出た。そして待ち合わせの昇降口で、うつむき加減に彼女を持った。






「みーちゃん! お待たせ」



 来た。



 暫くして笑顔で現れた彼女には、あのスマホに宿っているような禍々まがまがしさは微塵も無い。


「た、たいして待ってないよ。じゃあ、行こっか」


 さすがに影山映莉本人を目の前にし、緊張感に襲われる。


「みーちゃん、どこに行くの?」


「今日はゆっくり話したいから、公園にでも行こうと思ってさ……」


「私もゆっくり話したいって思ってたから……いいね! 公園」


「子供の頃は、そこでよく遊んでたんだ。……」


「へえ、そうなんだぁ〜!」


 美化はまず、敢えて鳩猫バラバラ事件の発生した『みつばち公園』に行くと言って、影山映莉の反応をうかがってみた。



(何も変化はない…至っていつもの影山映莉……)


 2人は自転車に乗り、みつばち公園に向かって走り出した。


「みーちゃんの話ってなぁに? やっぱ椿原先生系?」


「あー……それもあるけどね〜」


「わあ、熱い熱い♡」


「はははっ。まだまだ、分からないとこたくさんあるしっ! 影山こそ、なんの話なの?」


「えっ? 私っ? 私はねぇ……秘密だよ」


「ひ、秘密? な、なにそれ〜……」

(ビビってる場合じゃない! がんばれっ! 私っ!)







「あっ、公園見えてきたね!」


「そうそう! あれだっ! 懐かしいな〜」


 2人は公園のベンチの横に自転車を止めた。


「ふぅっ……。じゃあ、座ろ」


「うんっ!」


 ベンチに座ると、やはり少しお尻が冷たい。


 すると美化よりも先に、影山映莉が話し始めた。

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