第74話 もうひとりの影山
美化は狼煙から5分で帰宅。部屋に戻ってリュックとスマホを所定の位置に置き、部屋着に着替えた。
そしてベッドにうつぶせに寝た。
(う〜♡ 大麻じゃなくてよかった♡ でも、あの血の付いた取手の部屋には何があるんだろ?)
(
(そういえばカルチェさんが最初に言ってたっけ。『ただの優しいお兄さんじゃない』って。元ヤンなんて
(明日からはまた学校。影山が本当に鳩殺しをやったのか? それを確かめなくちゃいけない)
(鳩殺しの話を振ったら、影山はどんな顔するんだろ。ミサさんに託された影山のスマホは最終兵器。私が影山を救ってあげなきゃ。影山の心をね!)
美化は明日、影山映莉に事の真相を確かめる決意をした。
「夜にでもLINEしよ。明日、話があるって……」
そう決めたものの、美化の気持ちは複雑だった。
『影山が鳩なんて殺すはずがない』
『なんでそんなことをしたのか、話して欲しい』
そんな相反する気持ちが、頭の中でぐるぐるループしていた。体が引き裂かれそうな切ない感覚が頭のてっぺんから下腹部にかけて鈍く走っていた。
「もう! 分っかんないよっ!」
そう言いながら寝返りを打つと、棚に飾られたトロフィーが目に入った。
「懐かしい……」
それは、美化が小学6年の時の夏休みに、町の百貨店で
はっきりいって美化の相手になるような小学生はその大会にはいなかった。
ただ、
1人だけ実力とは関係なく、美化の頭に残っている『男子』がいた。
「そういえばあの男子も確か『影山』って名前だった様な気がする……」
初戦か2回戦だったかは忘れてしまっていたが、その影山と言う男子はヒョロっとして丸坊主で、緑色のポロシャツにジーンズの短パン、
とにかくめちゃくちゃな指し回しで、美化は変に
(このド素人ッ! 私に恥かかせて、許せない……!)
と、思うぐらいだったのだ。
最終的には美化の圧勝だったのだが、
そんなことがあったのだ。
「影山のことを考えすぎて、こんなことまで思い出すとは。私もあの頃はまだまだ弱かったな……」
なんか急に将棋が指したくなった美化は、この後、昼食もそこそこに夜まで将棋に没頭した。
「なんか、最近にしてはだいぶ指せたなぁ」
ここのところ、是露や影山映莉のことで頭を使いすぎて、まともに将棋をさせていなかった。
指す気分にすらなれていなかった。
昔の記憶がなにかに火をつける。その
気持ちは強く、そして冷静に、最後まで気を抜かず、諦めない。それがたとえどんな
美化は今まさに、将棋で言うところの終盤戦の入り口に立っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます