第73話 是露の呪縛

「Zと俺は中学からつるむようになってさ。まぁ……不良グループのリーダー格だったんだ」


「へぇ……!」


「煙草だ、酒だ、その辺は中学の時から始めててね。高校に入っても素行そこうは変わらず。でもある日、Zに彼女ができた。可愛くてね。でもその子も悪くて。毎日煙草を吸ってる子だった」


「彼女……」

(パイセンすか……)


「Zのやつ、自分は煙草吸うくせに、その子には煙草やめろ、やめろって言ってさ。結局その子、最終的に煙草やめたんだよ」


「へぇ」

(やるじゃん、パイセン)


「それだけZのことが好きだったんだよな」


「なるほど」

(私の方が好きだしッ!)


「で、その子が煙草やめてじきだよ。死んじまったのは……」


「えっ! 死っ?」

(話が変わった……ッ!)


「是露もその子の事が好きだった。だからショックがすごくてな。荒れた荒れた……」


「是露先生が……?」

(想像つかない……)


「俺が『煙草やめろ』って言わなきゃ、あいつは死ななかった……!って言ったな。その子、交通事故で亡くなったんだよ」


「交通事故……?」


「ああ。タバコ1本どっかで吸ってりゃあ、その車にはねられる事はなかったって……あいつは言うんだ」


「そうかもしれないけど……」


「だよな? だけどZは自分を許せなかった。すさんだ日々が続いたわけよ」


「あっ、もしかしてっ。だから車も乗らない……??」


「そうだな……きっと。彼女を殺した凶器みたいなもんだからね」


「だからか……そうだったんだ」


 つくづく、さっきなんで車に乗らないのか、聞かなくて良かったと美化は思った。


「でだ! 渕山さん。ここから覚悟して聞いてほしい。多分本人から付き合っていけば話すと思うけど……いや。話せないかもな、さっきのZの感じだと……君のことが相当好きっぽい」


「えぇっ?♡」


「ここ数年であんな優しい顔のZ、初めてなんだよ。まさしく呪いが解けた……みたいな。俺に女連れで会いに来るなんて……ありえない」


「そ、そうなんですかっ……?」

(や、やた! やった! さすが旧友! やっぱり私は特別なんだ♡)


「そう。だからこそ! Zはひた隠しにするかも知れない……を。でも渕山さんにZが同じことをしたら……俺はあいつを許さないっ!」


「ひた隠し? 一体……なんなんですかっ……?」


「それは本人に聞くべきだと思う。あっ! 渕山さん、Zの家に行った事は?」


「あ、あります!」


「じゃあ、ひと部屋なかった? 入れない部屋が……」


「!!……あっ! ありましたっ!」


「そうか。あってよかった……と言ったほうがいいのかも知れない」


「あの部屋には何があるんですか?」


「そうやってZに聞いてみるといいよ。渕山さんの事が真剣に好きなら……たぶん、開けてくれるはず。そして、話すと思う」


「開けてくれなかったら……?」


「別れたほうがいい……何も起きないうちに」


「そ、そんなぁ……」


 全くもって、次から次へと悩みが尽きない。美化は恋って大変なんだとつくづく思った。


「紫牙さん、ありがとうございました……」


「いえいえ。本当にうまくいってほしいと思ってるから。頑張って! Zの呪縛じゅばくを解けるのは……渕山さんしかいないと思うっ!」


「ははは……そうかなぁ……部屋の中見せてくれるかなぁ……?」


「渕山さんっ! ファイトぉ〜!!」


 紫牙はにっこり笑いながらグーを突出つきだしてきた。美化は力なくグータッチした。


「それじゃあ……また」


「おう! 気をつけてね〜!」


 まさか紫牙も、美化が自分の店から5分程のところに住んでいるとは思いもしなかったのだった。




「是露先生……元ヤンだった! 意外っ♡」


 渕山美化、17歳。


 彼女の双肩にのしかかる問題は、未だ黒く歪み……重いままだった。

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