第69話 信じる気持ち

 カップラーメンで手に入れた幸せな気持ちと共に外に出ると、とてもいい天気だった。暖かな日差しが自分に『頑張れ』と言ってくれている気がした。


(大丈夫! 絶対に大丈夫!)


 そう自分に言い聞かせる。


 自転車に乗りペダルを踏みこむと、やはりふくらはぎが鈍く痛かった。


 是露へのマンションへは、初めて行った時と同じようにスーパーKITAURAの前を通り、是露の錆ついた自転車の後をついて行った道順を辿って進んだ。


 たった1週間前なのに、もう懐かしい気分がしていた。


 そして、その時の胸の高鳴り、体温、呼吸が自然と思い出された。


(是露先生、是露先生っ、是露先生!)


 今日、美化は確認しなくてはいけない。あの葉が大麻なのか。


 昨日、悪夢にうなされるほどに、悩み、震えていた気持ちは、筋肉痛で痛む足でペダルを踏みこむ度に、ただただ好きな人に会えるという喜びに変わっていった。


(是露先生っ!!)


 たった1日だが、是露の家で一緒に過ごした時間。


 分かち合った、優しくて、新鮮で、楽しい、嬉しい時間。


 あの時、見て、感じた、椿原是露という人間が犯罪を犯すとは、やはり思えなかった。


 宮古田カルチェがいう『ヤバい雰囲気』なんて、その時の椿原是露からは全く感じる事はなかったのだから。


(絶対に大麻なんかじゃない。是露先生はヤバい人なんかじゃない。悪い人にはあんな笑顔はできないし!)


 美化は是露を疑ってかかるのをやめた。


 しかし、


 宮古田カルチェの慧眼けいがんは、椿原是露という人間を決して見誤ってはいなかった。

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