第61話 それを持つ意味
美化の表情はこわばり、手から脇から変な汗が滲み出た。影山映莉を守りきる事ができないかも知れない。そんな絶望の中にいた。
「あのスマホさ、ロックはかかってたけどLINEが何回か届いて、その相手が『渕山美化』って表示されてたんだ。お前しかいないもんな。美化なんて変わった名前」
「………はい」
「だよな? 私がスマホを持って出てきた時の反応……動揺が隠しきれてなかったしな。他の2人は全く気づいてなかったみたいだけど」
「はぁ……」
(な〜んだ……あれは私の反応を見るためにわざと。……バレてたんだ……これで影山は警察に何かしらの取り調べを受けることになる……)
ミサは続けて話し出した。
「私はさ、『人の秘密を集める』いわゆる『弱みを握る』ってのが趣味で、自分でも変な人間だって言う自覚はあるんだ。だから仮にそれが警察が喉から手が出るほど欲しい証拠品だとしても……私の大事なコレクションを渡すつもりはない」
「え? ミサさん……」
「だけど私が見た犯人は多分その子だよ……美化。スラッとしててショートカット……違うかな?」
「……違わないです」
「その子、何かを地面に並べる様に置いていたんだ。そして立ち上がって上着のポケットから何かを取り出したその瞬間! 自分を見ている私に気がついたんだろうね。慌てて走って逃げたんだよ。私はその子がいたところを見る為に公園の中に入った……鳩がいたよ。頭のない。そしてスマホが落ちていた。それを拾って私はしばらく隠れていた。そしたら、その子が戻ってきて何かをずっと探しているんだよ。それを見て……今、私が持っているこのスマホは鳩殺しの犯人の物なんだと確信できたわけだよ」
「本当に……影山が……」
「15分ぐらいは彼女、探していたかな。帰ったのを確認してから通報した。自分の中で早くこのスマホを価値あるものにしたくてね。翌朝にはニュースになっていて嬉しくて震えたよ。スマホという絶対的な証拠を残してしまうというミスを犯した犯人が、いつ警察の捜査が自分に及ぶのかと『ビクビクしている姿』を想像するだけで快感だった」
「悪趣味ですね……」
美化はそう言うとこたつに入った。心底、体が冷えて堪らなかった。
ミサは寝室の戸を静かに開け中に入ると、影山映莉のスマホを持って出てきた。そしてまた静かに戸を閉めた。
「ほらよ」
とんっ
ミサは影山映莉のスマホをこたつの上に置いた。
「えっ……?」
美化は弱々しく驚いた。
「美化にあげるよ。それ」
「い、いいんですか? 大事なコレクションなんじゃ……?」
「別に私は意地悪おばさんじゃないよ。美化に会ってなかったら、もちろん大事に私が保管していただろうけど。私が気に入った渕山美化の友達の物なら……それの扱いはお前に任せるさ。ただ、それを持つ意味……分かるな?」
「………はいっ」
「ちゃんと助けてやんな……」
ミサは美化の背中をポンと叩いた。
「ミサさんっ……ありがと……」
そう言って美化は泣いた。
しばらく泣いて美化は顔を上げた。
「帰るか?」
「はい……」
「じゃあZの袋、頼むな!」
「たぶん無理ですっ!」
美化はこたつの上の1万円札を手に取った。
「タクシー呼んでやるよ」
「ありがとうございます」
こうして是露のZ問題は、宮古田カルチェとその仲間たちのおかげで解決への方針が決まったのだった。
明日、椿原是露との関係が失われるかもしれないと思うと、正直、
今は逆に
「じゃあ、カルチェさんとルウラさんによろしくお伝えください。また連絡します」
美化は玄関まで見送りに来たミサに笑顔でそう言った。
「あぁ、美化に会えてよかったよ。いつでも連絡してきな! 私達がついてるから。安心しとけっつーの」
ミサは相変わらずの不健康そうな青い顔で言った。でもその顔はとても優しく、力強く見えた。
「はいっ。じゃあまたっ!」
美化はエレベーターを使わず階段で1階に降りた。
(是露先生……そして影山。2人とも絶対に助けるっ!)
強い決意を胸に、美化は来たタクシーに
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