第58話 鳩殺しの犯人

 ミサがベランダに出て行ったのを確認してから、カルチェが話し出した。


「美化さんは多分、なんでこんな感じの人が私の家にいるんだろう? って思ったかもしれないけど……」


「はい。思いました。お二人とは雰囲気が全然違うんで……」


「でもね、あの人……ゆうミザリーって源氏名でほんの数年前までNO.1キャバ嬢だったのよ」


「NO.1……!? 優雅水ミザリー? あの人が……」


「でもいろいろあってね。その源氏名で呼ばれるのが嫌になるぐらい。だから本名のがみミサで私たちにも呼ばせている訳よ」


「いろいろ? あの不健康な感じと関係があったりするんですか?」


「そうね……ハッキリ言えば薬物中毒ってやつよ。一応合法のだったんだけど……体は日に日にむしばまれていったわ。薬抜くのに結構苦労してね。1人で居させるのも心配で、私とルウラと3人で暮らしているわけ。かわいがってもらったのもあるし、人として……尊敬もしてるしね」


「そうっすね! ミサさんは超リスペクトっすよね!」


って……じゃあ、私はどうなの? ルウラ」


 カルチェはルウラをにらんだ。


「カルチェさんは〜……マジでリスペクトっすっ!(笑)」


「だよね? よろしい」


 美化はここに来て良かったと改めて思った。人間、ちゃんと付き合わないと分からないもんだなと感じたからだ。


 今までの人生、人間関係を疎ましく感じ、表面上の薄い付き合いしかしてこず、将棋同様に自分との対峙たいじを最優先に生きてきた。


 自分が強ければ相手など関係ないと。


 それを打ち砕かれ、自然と受け入れることができた存在が影山映莉だった。


 それ以来の衝撃がここにはあった。


 宮古田カルチェ、金城かねしろルウラ、優雅水ゆうがみミザリーこと井戸上ミサ。


 全員が今、自分の話に真剣に耳を傾けてくれている…


 こんなやりとりが美化はたまらなく嬉しかった。


「あははっ」


 つい、カルチェとルウラの会話を聞いて笑ってしまった。


「あら。美化さん。話して少しは笑えるようになったの?」


「はい。ちょっと話して心が楽になった気がします」


「そうそう、悩みはひとりで抱えこむと地獄並みにツライっすからね! 話したら絶対楽になるっすよ! はいっ。みけちんもグミ食べるべし!」


「あっ、はい。いただきます」


 美化はルウラの差し出したグミをひとつ、口に入れた。


「うわっ!! あっま!!」


「おいしくない? 私、最近こればっか食べてるよん! ぷーくすくす」


 美化はルウラの持ってるグミの袋をよーく見た。


 まったく日本語が書いてない。


「どおりで……日本人の味覚には」


「あー、これ? 確かスペインのだったかなぁ? 私にはこの甘さがちょうどいいんだよね!」


「さすがにあんた最近ちょっとデブってきてない?」


「失礼なー! もともと私はちょっとぽっちゃりなんですぅ! 甘いものはやめられないっすよ!」


 そう言いながら、ルウラはグミを1袋食べきった。




「さむさむさむっ〜!」




 ミサがベランダから戻ってきた。


 そして4人がこたつに入った。


 ミサが前髪で顔が見えないまま話だした。


「私はさぁ、礼儀正しくないやつは嫌いでね。でも、美化は礼儀正しい子だ。だから教えてあげたんだ。私の持ってる秘密をね……」


「あ、ありがとうございます」


 美化は頭を下げた。


 そして、井戸上ミサが長い前髪をかき上げながら話し始める。




「こないだの鳩殺し……犯人はだよ」





「女? それ本当ですか?」


「まじっすかっ!?」


「へえ。女変質者ね……ゾクゾクするわね」



 美化、カルチェ、ルウラ、3人ともミサの秘密の暴露に驚いた。

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