第57話 秘密主義者の断言

「ルウラ〜、あったかいお茶持ってきて〜!」


「へいへーい!」


「さてと、じゃあ聞こうかな。その是露先生についての話」


「……はい」

(話すぞ〜、落ち着け〜……よしっ!)



 美化は早口にならないように、意識して話し始めた。



「実はですね……この前の日曜日、私は是露先生のうちに行ったわけです」


「嘘っ! いきなりおうちデートっ? いやらしいっ! 信じられない! あの男は……」


「あっ! それがですね、あるゲームのエンディングを見せてもらうという約束をしていまして……なので必然的に家……ということになったわけなんです」


「ふ〜ん。あたしもゲームやろうかしら……で?」


「で……家に入ってすぐに『その物』は目に入っていたのですが、ちゃんと見てはなくて……でもテーブルの上に無造作に置かれていたのでチラチラと……その後も確認と言うわけではないんですけど、気づかれないように見ていたわけです……」


「なにを?」




「お茶でーす! どうぞ、みけちん」




 ルウラがお茶を持ってきた。


「あっ……ありがとうございますっ」


 そして金城かねしろルウラは、こたつの上にいくつかのっていたグミの袋を1つ手にとるとビッと開けて、ムシャムシャ食べ始めた。


「ねぇ、ルウラ……それ朝食?」


「えっ? あっ、まぁ前菜っすね! 自分、口の中が絶えず甘くないとダメなんすよね〜。ぷーくすくす」


「たまには野菜も食べなさいよ……」


 金城ルウラは、グミを食べながらこたつに入った。


「ちょっ、ルウラっ……」


 カルチェは目であっちの部屋に行くように合図した。


 すると……


「ねぇ、みけちんっ。私も話聞きたい。だめ?」


「えっ……?」


 一瞬迷ったが、宮古田カルチェの友人になら聞いてもらってもいいと、美化は思った。


 1人でも多くの信頼できる人間に、現状を解決するすべを教えてもらいたいと……。


「是非、聞いて下さい」


 美化はそう言い、カルチェは軽く頷いた。


「美化さんがいいならいいわよ。じゃあ、そう! 是露先生の家で何を見たのか……ね!」


「はい……それはジッパー付きの半透明の袋に入っていたんです……Zって知ってます?」


「Z? 確か……品種改良されたっていう……」


「大麻っすよ! カルチェさん!」


「美化さんっ! ほんと? それっ?」


「その袋の中には乾燥した葉のようなものが入ってて……そして袋にはZってマジックで書かれていて……」


「マジで!? そっち? 私が彼にずっと感じていたヤバさとは……また違うわね。ふ〜ん」


「それと……」


「まだ何かあるわけ!?」


「いや、これは……なんとも言えないんですが、そんなん見ちゃったせいもあって……妄想が膨らむというか」


「……っ他に何があったんすかっ?」


 ルウラはグミを飲み込んで聞いた。


「……血なんです」


「血……?!」


 カルチェとルウラはさらにびっくりした。


「血だと思うんですよ……あれは。血がついていたんです……部屋の戸の取手に。で、その部屋は物置だから絶対開けないでって……」


「ホラーじゃないすかっ!」


「で……ちなみに最近ニュースでやってる『鳩猫殺し』知ってます? しかも近所なんです……」


「鳩? 猫? あー、確か……」


「こないだのあれですよ! カルチェさん。首を斬られた鳩が10羽……あの酒屋の側の公園に捨てられてたやつ」


「ミサさんが通報したってやつね!」


「それっすよっ!」


「さっきのかたが通報?」


「そうっす! こないだのはミサさんが第一発見者なんすよっ!」


「そうなんですか……なんか、まさか是露先生が……やってたら……どうしようって……」


 3人は沈黙した。



 すると、ガラッと寝室の戸が開きミサが出てきた。


「ずいぶんと盛り上がってるねぇ。うるさくて眠れないよ……」


 美化はさっきよりもちゃんとミサを見た。


 上下黒のスウェット、髪は真っ黒のストレートで肩に届くか届かない位の長さ、前髪もそのぐらい長かった。


 顔は髪の毛で大部分隠れていたが、色白で綺麗な感じの人だった。


 ただ本当に不健康そうだ。


「そのさぁ……彼はやってないよ。断言しといてあげるよ」


 ミサがわりとはっきりとした口調で言った。それを聞いて、カルチェもルウラも驚いて目を合わせた。


「えっ? どうしたんですか? 2人とも……そんな顔して……?」


 美化は不思議そうに聞いた。


「美化さん。この人が『彼はやってない』とか『断言する』とかって普段絶対に言わないのよ。超秘密主義者で、そんな情報を言う人じゃないのよ。趣味が秘密の収集っていうぐらいなんだもの」


「えっ、えっ?」


「カルチェ……煙草取ってくれる?」


「はいはい」


 そう言ってカルチェはテーブルの上のミサの煙草を手渡した。


 ミサは上着を着て、タバコを吸いにベランダに出て行ってしまった。


 何故ミサは是露はやっていないと断言できたのだろうか?美化はそれが早く知りたかった。

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