第5章 i'm a mess
第56話 宮古田カルチェの同居人
乗り込んだタクシーの車内は、例のごとくblack holeの香りで充満していたが、そんなに嫌な気分はしなかった。
「じゃ、運転手さん行ってください」
「はい」
運転手はもう行き先を分かっているようだ。
(み、宮古田カルチェのうちに行くことになるなんて……この展開は全く考えていなかった。こ、これ大丈夫だよね? は、話は聞いてくれるみたいだし、もう行くしかないっ……)
チラッと宮古田カルチェを見てみるとドアにもたれて完全に寝ていた。
(そ、そうだよねぇ。お疲れ様です)
20分ほど走って、タクシーはとあるマンションの前で止まった。宮古田カルチェはバッと起きて素早く代金を支払い、タクシーを降りた。
「じゃあ、こっちだから」
「はい」
早足の宮古田カルチェに美化はついていく。
街中に
ピッ! ウィーン
カードキーをセンサーに当てるとオートロックの自動ドアが開いた。
そして中に入ると左右に通路が分かれており、奥にエレベーターが見えた。宮古田カルチェは左の通路の奥に向かった。エレベーターのボタンを押すとちょうど1階に降りていたので待つことなく扉が開いた。
2人はエレベーターに乗り込む。
そして、宮古田カルチェは2階のボタンを押した。
(2階? カルチェの見た目からして最上階に住んでるのかと思った)
エレベーターは勢いが出る前に、2階で止まった。
ガタンッ!
扉が開きほぼ正面の左にあるドアに、エルメスのバックから鍵を取り出し差し込んだ。
ガチャガチャ……カチャ!
鍵の開く音がして、宮古田カルチェは勢い良く玄関のドアを開けた。
カラン♪ カラーン♪
ドアチャイムの音が響いた。軽くドアを抑えながら美化を中へと招き入れる宮古田カルチェは少し笑顔だった。
「あっ、おかえりらはい。カルチェさん。誰、その子? 誘拐すか? やっちゃいましたねぇ。ぷーくすくす」
棒つきの飴を舐めながら出てきたその女は、カルチェと比べると少し肉付きのいい体で、髪はゆるふわのセミロング、茶髪に所々金髪が混じっていた。ほぼ、すっぴんだが可愛い顔をしている。
「おバカっ! お友達。美化さんよ」
「みけちゃん? かわいい名前! よろしくね! 私はカルチェさんの後輩で
「ど、どもっ!」
(なに? ぷーくすくすって?)
宮古田カルチェもそうだったが、美化の17年の人生で、接したことのないタイプの人物にどぎまぎした。
「こっちの部屋で話聞くよ」
「は、はいっ」
奥に行くとピンクと白を基調とした、かわいい部屋が美化を出迎えた。
玄関に入ってからずっとだが、この家の中はblack holeを始め、甘ったるいメスの匂いが立ち込めている。
「ミザリーさーん! 起きて! 寝るならベッドで寝てくださいよ!」
よく見るとこたつから頭だけ出して寝ている人物がいる。
「その名前で呼ぶなっつーの。ぶっ殺すぞー」
そう言いながら、ぬるっと出てきた細身の女は、見るからに不健康そうだった。
指輪とピアスをたくさんつけてはいたが、宮古田カルチェや金城ルウラのような華やかさはなく、なぜここにこんな人がいるんだ?とさえ思える風貌だった。
「うう、寒いっ!」
「だってミサさん起こすにはミザリーって呼ぶのが手っ取り早いんで」
「バカやろ。あれ? その可愛い子ちゃんは? 新人? さすがに違うか」
「お友達です。相談があるみたいで連れて来ちゃいました。JKの美化さんです」
「へえ、JK? どおりでピッチピチなわけだ。顔も可愛いじゃん」
「すみません、おやすみのところ」
美化がそう言うと、その女の表情がパッと明るくなった。
「礼儀正しい子は好きだよ。実にすばらしい。私はベッドで一眠りするから、カルチェに話、聞いてもらいな」
そう言って、その細身の女は隣の寝室に行き、戸を閉めた。
「さっ、座って」
「はい」
美化とカルチェはこたつに向かい合って座った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます