第52話 意外な相談相手

 寒空の下、自宅に向かう美化。


(恥っずい! 恥っずい! 好きって言っちゃったし! 抱きついちゃったし! でもでもっ! 是露先生が先に私に抱きついたわけだし。私から抱きつくのも別に問題ないよね♡ そして是露先生も私のことを好きって、ん? 言ってない? 『俺もだよ』って確か言ってたけど好きとは言ってない? でもそれは『好き』ということですよね? 私のこと好きなんだよね? 初恋が成就じょうじゅしたってこと? 残ネルとさくらぶの存在がマジで神! 信じられない! てかもう止まらないし! かっこよくて、かわいくて、飾らない是露先生が超好きっ♡ 私にどんぴしゃ♡ にしても是露先生の体めっちゃエロかった〜♡ 筋肉すごくない? そして是露先生の匂いもパない♡ 脳みそ溶ける。心臓飛び出そうだったし! 足ガクガクでエレベーターの中、立ってらんなかったし。是露先生の匂い。また早く嗅ぎたい♡ はあ♡)


 美化は自転車のスピードが、かなり早くなっているのに気づいて慌ててスピードを緩めた。


「はぁっ、はあっ、はぁ、はぁ、はあ〜あ……」


 乱れた息に混じって溜息が出た。


(でもあれよ。Z。なんで? 気づいてないフリでずっといたけど。先生、捕まる前にやめてよ。やだよ是露先生がいなくなっちゃうなんて。どうしよ。影山に相談って訳にもいかないし)



「あっ!!」


 その時、美化の頭の中に1人の人物が浮かんだ。複雑な人間関係の中を生き、様々な経験を積み、その中でつちかわれたであろう慧眼けいがんの持ち主。そして、自分のを自負する女。


「宮古田カルチェ……!」


 なぜに彼女が浮かんでしまったのか? 昨日話したばかりの10は年上であろう彼女は間違いなく大人であり、自分には到底及ばない部分を持っている。それは少しの時間接しただけでも十分に感じていた。


 『容姿端麗ようしたんれい』『才色兼備さいしょくけんび


 日々、研鑽けんさんを積んできたであろういいようのない雰囲気、オーラ。「それ」に実は圧倒されていた。


 さらに、『将棋の天才、都田千恵』の冠までついて、さらに美化の中で宮古田カルチェの存在が大きく膨らんでいた事は間違いなかった。


(でも恋敵。相談っていっても鼻で笑われておしまいっなんて可能性もあるし。うーん)



 モヤモヤとドキドキを繰り返しながら美化は帰宅した。



「ただいま〜」


「おかえり、美化。楽しかった?」


「うん。影山と初めてカラオケに行ってきたよ」


「あらそう。カラオケかぁ〜♪ 私も行きたくなってきちゃった」


「また、まみーと3人で行こ」


「そうねっ」




 祖母とそんな会話を交わし2階に上がると、着替えることもなく自室のベッドに寝っ転がった。軽く熱っぽい。


「はあ、是露先生……♡」

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