第50話 日本のこころ茶
品種改良大麻Z。
ニュースで見たそれが今、目の前にある。大麻所持は犯罪。そんな事は美化でも知っている。
なんという事だ……好きになった男が犯罪者だったなんて。
ドラマでしかお目にかかれないようなシチュエーションじゃないか。
そうなってくると戸の取手部分に血のようなものが付いている「開かずの間」も、
(まさか……!?)
美化は思い出していた。
最近この辺りで起きた鳩やら猫やらが無惨に殺されている事件の事を。
(いや、さすがにそれは……)
是露が水を飲み終えてテーブルに戻ってきて座った。
「ラーメン食べちゃお! のびちゃうからっ」
そう言って胡麻味噌ラーメンをすすりだした。
「は〜い♡」
美化は是露の屈託のない笑顔を見て思う。
(とても犯罪を犯すような人には見えないよ……って! それよく『実際の犯人』が言われがちなやつじゃん! もおっ! バカバカっ!)
2人はラーメンと小籠包でご飯を食べきった。
「ふーっ、おいしかったなぁ! 美化ちゃんにも分かってもらえてよかったよぉ。このうまさっ!」
「他にも是露先生の好きなもの何か食べたいなぁ♡ えへへ」
美化は不安を払拭する為に、無意識に是露の笑顔を求めていた。
「またね! さすがにもう入んないでしょ? このお饅頭も俺の好物なんだけど!」
そう言って是露はテーブルの上にあった饅頭を手に取った。
「それも? 気にはなってました♪」
「知ってる?
「卍門屋? おばあちゃんも好きだったような……」
「食べる? お腹いっぱいじゃない?」
「別腹持ってるんでいけますっ!」
「でたっ! 別腹っ! じゃあはいっ!」
是露は美化の手のひらに柚子饅頭をぽんと乗せた。
美化は包み紙を剥がし、クリーム色の饅頭を
パクッ……!
(あっ、皮と
「んふ〜♡」
やはり甘くておいしいものを食べると女子は自然と笑顔になる。
「うまいでしょ? 卍門屋! 週末の楽しみなんだ。先週はりんご大福食べたんだけど。絶品だったよ」
「へぇ〜。またおばあちゃんに聞いてみようっと」
「じゃあ、お茶入れるねっ」
「あ、ありがとうございます」
是露は冷蔵庫から1・5ℓのペットボトルのお茶を取り出した。
「あっ! 『日本のこころ茶』! 私もそれ好きなんですよぉ」
「俺、お茶はこれしか飲まないぐらい好きだね! 千利休に飲ませてやりたいわっ!」
「あははっ。そうですね(笑)」
日本のこころ茶を湯飲みに注いで、70℃にセットしたレンジに入れた。
ピッ!……ブゥーー……ンッ
お茶が温まる時間が長く感じる。
ピー、ピー、ピー、ピー
「はーい。日本のこころ茶でーす!」
是露は美化の前に優しくお茶を置いた。
「ありがとうございます」
「たぶんね、ちょうどいい温度になってるから。熱すぎないと思うよ」
「はい。いただきます」
ずずっ……ごくっ
口の中に仄かに残っていた柚子の香りと、いいお茶の香りが混ざって喉に落ちていく。
是露が言ったとおり、熱すぎないそのお茶は、今の美化の動揺していた心を少なからず落ち着かせた。
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