第44話 こんな事ってある!?

 ガチャン


 美化は部屋の戸を閉めた。目の前には12畳程の広さのリビングダイニング。入ってすぐ右手にキッチンがあり、左手にはさらに部屋の戸が2つあった。


 そして正面のリビング、右奥にはそれほど大きくないテレビが鎮座ちんざしており、周りの床には少しほこりかぶったゲーム機、ゲームソフトがゴチャゴチャに置かれていた。


 それらの手前には紺色のラグが敷いてあり、その上に黒のシンプルなローテーブル、上にはお昼にでも食べたのか、カップ麺の容器に割り箸が入ったままのっていた。


 他にもエナジードリンクとコーラの缶が数本、メモ用紙にボールペン、煙草の吸殻が5〜6本入った黒い灰皿、『何か』が入ったジッパー付きの半透明の袋、錠剤のシート、そしてお饅頭が2個のっていた。


 そしてテーブルの下には、ゴミが突っ込まれたドラッグストアのビニール袋。


「一応……掃除機はかけたんだけど」


 あまりに想像とかけ離れた部屋をたりにして美化は……



 感動していた。




(な、なにさっきからこの感じ? 分かったっ! この人、まったくカッコつけてないんだっ! ありのままなんだ!)


「上着これにどうぞ」


 そう言って是露はプラスチックのハンガーを美化に渡した。


「どうもです」


 コートをハンガーにかけ、是露に手渡す。そしてなにより驚いたのは、リビングの左側を占めているものだった。


「あのぉ〜……」


 美化がそれについて聞こうとするのをさえぎって是露が逆に聞いてきた。


「渕山さん……俺、昨日気づいたんだけど……そのっ……リュックに付けてる缶バッジって……」


「えっ……!?」


「桜のKIRIKABUの西丘にしおか愛朱あいす……だよね?」


 その通り、美化はリュックに推しの西丘愛朱のキャラクターバッジを付けていた。


 美化は緊張が一気に解けた。


「もー! 早く言ってくださいよっ。先生もさくらぶのファンだったんですね!!」


「い、いやぁ……面目ないっ!」


 リビングの左側を占めていたのは桜のKIRIKABUのグッズだったのだ。


「……で〜? しかもぉ〜……これは邪羅じゃら様推しですか〜?(笑)」


 グッズが飾られている棚の7割は、ダークマターブラック担当の弾劾だんがい邪羅じゃらのグッズだった。


「いやっ! お恥ずかしい」


 是露は頭をかきながら笑った。


「私も弾劾だんがい邪羅じゃら好きですよ! カッコよくて、かわいいっ!」


「だ、だよね!? ホント完璧……美しすぎるんだよっ! 邪羅様はっ!」


「あはははっ! 是露先生熱いなぁ〜!」

(た、楽しいっ! まさか、残ネルだけじゃなくて、さくらぶのファンでもあるなんてっ! こんな事って……あるっ!?)


「渕山さんはいつからさくらぶファンなの?」


「ん〜と……3年ぐらい前からですね!」


「俺も3年前からだよ! 『マシンガンレイン』聴いて……」


「えっ〜、私もですっ!マシンガンレインからですっ!」


「嘘ぉ〜!? 信じられないっ! こんな偶然あんだねぇっ!」


「すごいすごいっ♡」


 2人は同時期に桜のKIRIKABUのファンになっていたのだった。


 それから2人は桜のKIRIKABUの話題で盛り上がりつつ、互いの事も話した。


 美化はゲーム以外にも将棋とルービックキューブが好きな事。お笑い好きの母の事、料理が得意な祖母の事、そして影山の事。


 是露は職場の仲間の事、片付けが苦手な事、宇宙や宇宙人についての話が

大好きな事。


「そうそうっ。だから絶対に宇宙人はいるんだよっ! 信じるか信じないかはあなた次第です! なんてね」


「信じますよ! 私もいると思います!」

(ふふっ♡ 是露先生、目がキラキラしてるよっ)


「あっ……ごめんっ、飲み物のひとつも出さないで……」


「いえいえ、大丈夫ですよぉ」


「ちょっと待ってね! コーヒーれるからっ」


「はいっ。ありがとうございます」


 是露はキッチンへ行き、棚からポットを取り出した。

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