第4章 椿原是露の秘密

第40話 浮かれる朝

 2月15日。日曜日の朝。


 美化は目が覚めた。


 時計は7時30分になるところだった。


「うーんっ! よく寝たぁー!」


 ベッドで背伸びしてから、ゆっくりと起きてみる。


 どこも体調は悪くない。


「よしっ」


 具合が悪かったら、せっかくの今日が台無しになってしまう。それをいちばん美化は心配していた。


 洗顔を済ませて、早速モーニングルーティーンを始めた。


 カシャカシャ、カシャカシャカシャカシャ!! 


「よしっ!」


 45秒で6面揃え終えた。


 続けて将棋の駒をひとつ、ひとつ、集中して並べていく。


 パチン! パチンッ!


 駒音を聞く度に、自分の中の芯がしっかり強くなっていくのを感じる。


「ふぅ……」


 そして並べ終えると、ディープマリンブルーのスカーフを盤にかけ、テレビをつけた。


 すると情報番組のエンタメコーナーで、なんと美化の愛するアイドルグループ『桜のKIRIKABU』が特集されていた。


「うっそぉ〜♡」


『新曲のうしろまえ♡が好評の8人組のアイドルユニットなんです! 今日は個性的でかわいいメンバーが勢揃いしてくれていまーす!』


「えっー!? なになに!? ついに時代が『さくらぶ』に追いついてきたってわけっ?」


 ちなみにファンは桜のKIRIKABUのことを略して「さくらぶ」と呼ぶ。テレビではメンバー紹介が始まった。


『はい! MAXハートピンク担当のぉ〜リーダー! たま輿こし姫姫ひめひめですっ♡』


「わー! ちゃんとひとりひとり自己紹介あるぅ♡ 玉姫ちゃん! 萌え〜♡」


『ダークマターブラック担当。弾劾だんがい邪羅じゃらです』


「邪羅様、美しい♡」


『はいはーい! メロンソーダグリーン担当の天草早苗あまくささなえでーす! いぇーい♪』


「早苗ちゃん、いつみても安定のかわいさ♡」


『スプリング、スカイ、ブルー担当の虹野にじのルビーです……』


「はぁっ♡ ルビーたんがんばっ!」


『はい! シャイニングスターイエロー担当の月輪つきのわみらでーす! みんなー愛してるよぉ!』


「みららん! 元気もらうわぁ♡」


『へ〜いっ。エンジェルブラッドレッド担当の天使あまつかいばらどえーす。よろしこしこぉ〜♪』


「地上波なめんなよぉ、天使ぁ♡」


『あっ、次? 私? はい。ディープマリンブルー担当の西丘愛朱にしおかあいす、17歳です! よろしくお願いします!』


「にゃーん♡ かわいい! あいすたーん♡」


『ふ〜、ラストは私! キュートポイズンパープル担当の暗乃あんのghostゴーストでありんす♡』


「ghostさん。キャラが安定しないっ! それが魅力っ♡」


『8人揃って! 桜のKIRIKABUでーす! イェイ! イェーイ!』


 その後、5分程で特集は終わった。


「まっさか、さくらぶがこんなメジャーな朝の情報番組で特集されるとはっ! ファンながら信じられないっ! テレビをつけたタイミング、神ってたしっ!」


 こういう『運命』を感じるタイミングでテレビをつけた経験、みなさんもないだろうか?


 朝から興奮した美化は、さくらぶの曲を聴きながらストレッチをすることにした。


「よよよい、よよよい、よよよいしょっ! はっ! くぅ〜伸びるぅ!」


 『全部白紙です。』

 『するの?しないの?』

 『すっぽんlove』

 『可愛いのかけ算』

 『十中八九じゅっちゅうはっく

 と、5曲聴いたところで


「はいっ、終了っ!」


 曲を止めて仰向けに寝た。


「今日は朝から縁起がいじょ!」


 目をつぶって、いつものストレッチよりも血流がよくなっているのを実感していると、テレビから流れてきたのは昨日もニュースでやっていた、例の品種改良大麻Zのニュースだった。


「またやってるし。おゲロうんちにすればいいんだよ。そしたらダサくてやる人減るんじゃない?『次は、品種改良大麻おゲロうんちのニュースです』なんてっ! ウケるッ!」


 美化はまったく自分には関係のないニュースだともちろん思っていたが、Zは静かに美化に忍び寄っていたのだった。


 そんなこと知るよしもなかった。

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