第39話 是露からの返信

「はい! おまたせ〜!」


 今夜のメイン、青椒肉絲チンジャオロースがテーブルにやって来た。母も仕事から帰ってきて、3人で夕食を囲んだ。


「美化、最近の具合はどないやねん?」


「よきだよ! あの時は特別! 残ネルやりすぎたせいだから。まみーは?」


「いいよ。痺れもナッシングよ!」


「佐藤先生さすがだな。影山って友達を今日連れてったんだけど、肩がなくなったみたいに軽くなったって言ってたし」


「また、私も佐藤先生に会いに行こうかなぁ♡ むふふ」


「おい、熟女よ。変な気を起こさないでよっ!」


「別にいいじゃーん! 恋は自由なのよっ! お父さん、許してねん!」


「恋……自由……」


 母のなんて事ないその一言に、美化はすごい共感してしまい無言になった。


「おーい! 美化っ! なぜそこで無言やねんっ!」


「あっ、あぁ、そっか……」


「キレがないな〜! ちゃんとツッコミ入れてよ〜! 頼むでほんま」


 母はかなりのお笑い好きである。


「も、もうエロ熟女には付き合いきれんわ〜……あはは……」


「でもさっ、あんなイケメン……彼女の1人や2人や、3人は軽くいそうよね?」


 美化はそれを聞いてギョっとした。


(そ、そうだったぁ〜! 確かにあんなイケメン、『彼女いない率』低いに決まってるっ! ヤ、ヤバい、影山がまた……)


 美化は、友の恋がまた成就じょうじゅしないのではないか?と思うと切ない気持ちになった。


 自分も明日にはどうなるか分からない。急に夕食の青椒肉絲チンジャオロースが喉を通らなくなった。


「ご、ごちそうさま……」


「ん? あんたが青椒肉絲でおかわりしないなんて……まさか!?」


「な、なによっ?」


「ダイエット中ですかぁ〜?」


「残念でしたっ! 私はまみーみたいに腹出てないからっ! ふん」


「ぷぷーっ! 分かってないなぁ、小娘は。熟女の『コレ』がたまんないらしいよっ! マニアは♡」


 自分のお腹の肉をつまんで、母は笑顔で言った。


「なんにでもマニアはいるから世の中捨てたもんじゃないね〜」


「ふ〜ん。じゃあ、ダイエットではないわけか。まっ、体調が悪いんでなければいいよ。またフラフラで病院とか……勘弁してちょーよ!」


 一応、母。娘の心配はする。


 さすがに恋患こいわずらいだとは気づかなかったようだ。


 美化は部屋に戻ると、スマホをチェックした。


「あっ♡」


 椿原是露からの返事が来ていた。


[返事ありがとう! 仕事の疲れも飛んだよ。今日は自分も緊張しちゃってなかなか話せなくてごめんなさい]


[年上なのにお恥ずかしい。明日、渕山さんも都合がいいみたいでよかった]


[残ネルはネル・フィードと戦うところ。絶対勝って真のエンディングを見せてあげたいと思います]


[で、午後の2時にスーパーKITAURAキタウラで待ち合わせでいいかな?]


「おお……」

(ひゃー♡ 先生も緊張してたの? 私ごときを相手に? ほんとに?)


(『年上なのにお恥ずかしい』とか、ちょっとかわいい♡ 私、男の人をかわいいとか思ったの是露先生が初めてかも)


(勝手にかっこいい人を好きになるもんだと思って生きてきたけど、男のかわいいってこういう感覚か……悪くない♡) 


(でも、是露先生はかっこよくて、かわいい……実にヤバい存在だよね)


(待ち合わせはスーパーKITAURA? 割と近い……是露先生の家って、ひょっとしてそんな遠くないの?)


 美化は是露に明日の14時、スーパーKITAURAの待ち合わせで大丈夫だと返事をした。


 あえてここで色々と質問はしない事にした。全部明日にとっておこうと決めた。


「2時か、準備はバッチリできるね♡」


 美化は明日の2時に是露と会う事になったと、影山映莉に連絡した。


 するとすぐに返事が来た。


ピコッ☆[椿原先生いい人だと思うけど、なにかあったら連絡してくれていいからね。LINEでも電話でも。とにかく楽しんできてね]


「了解っ♡ 楽しんでくるよ……」


 気持ちが落ち着いてきた美化は、久しぶりにいつもやってたレトロゲームを楽しんだ。


 そして、将棋の勉強、対局もした。とても充実した夜を過ごしていた。


 お風呂もいつもより長めに浸かり、恋の心地よい疲れを、じんわり41℃の湯に癒やしてもらう。


「はぁあっ……」


 そして明日に備え、日付けが変わる前にとこに着いた。


 美化の濃厚なチョコレートのような2月14日は、こうして終わったのだった。

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