第38話 品種改良大麻 Z
渕山美化、17歳。
あまてらす鍼灸整骨院の治療師、椿原是露に初恋中。
連絡先にひとこと添えられた紙をずーっと眺めながら、なにかしら呟いていたのだった。
「意外とかわいい字……♡」
「私との話、楽しかったんだ……♡」
こんな感じが1時間は続いていた。
(人生最高のバレンタインデーになってしまった♡ すべて影山先生のおかげだね。ふぅ。影山は佐藤先生とうまくいくかなぁ? いってほしいわぁ)
「さてっ、そろそろ連絡入れてみようかな……」
美化はスマホを手に取り、是露にメッセージを送った。
[椿原先生さっきはありがとうございました。肩すごく楽です。合谷も押すようにしますね。明日、会えます! 時間や待ち合わせ場所などお返事待ってます]
「も、もう引き返せないしっ!」
美化は気持ちを落ち着かせようと将棋でも指そうと思ったが、脳の大半が明日の事にもっていかれてしまい、とても将棋を指せる状態ではなかった。
結局ベッドに横になり、桜のKIRIKABUの曲を聴きながら、
「はぁ、明日は大丈夫かな……」
(とりあえずは残ネルの真のエンディングを見せてもらうという1番の目的があるわけだし。その後は? え? 分かんない……全く分かんないっ!)
美化は思考を停止した。
そして、知らないうちに眠ってしまっていた。ムクリと起きあがり時計を見ると、もう18時になるところだった。
「恋がこんなにも体力を消耗するとは知らなかった……私、寝てばっか」
美化は1階に降りてグリーンダカラをコップ2杯飲んだ。
「ぷはぁー……グリーンダカラうまし!」
そんな美化に祖母が気づいた。
「あっ、美化お腹空いたの? ニュースちょっと見たら作るから、待っててよ」
「あー大丈夫、大丈夫。まだそんな腹ペコでもないし」
「そうなの? めずらし」
「そういう日だってあるしっ! 私どんだけ食いしん坊キャラよ」
「あっ、ニュース始まった」
「ニュース……私も見とこ」
そう言って、美化も祖母と一緒にこたつに入った。
政治と金、悪質な交通事故、そんな一向になくならないよくあるニュースに続いて取り上げられのは、
使用効果はそのままに、尿などからその成分が検出されないという。
「Zって誰が付けたのっ? 『絶対に詰まない』のZからとったんじゃないよね? やめてほしいんですけど!」
ちなみに将棋用語でZとは、何を指されても絶対に玉が詰む事のない状態の時に用いられる。
それが『絶対に逮捕されない』という意味にかけて名付けられたのではないか?と、美化は勝手に思ったのだ。
「そもそも、大麻なんかにカッコいい名前なんてつけるからいけないんだよ! おばあちゃんもそう思わない?」
「確かにそうかもねぇ……」
「もっとこうさっ!……おゲロうんち的な?」
「もー! きたないねぇー」
「あはははっ!」
「はぁ、じゃあ……ごはん作るよ」
「ちょっとお腹空いてきたかもっ!」
「はいはいっ」
美化のおかげで、おゲロうんちの直後に夕飯を作るはめになってしまった祖母であった。
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