第37話 是露の手紙

 美化は会計を終え、影山映莉が出てくるのを座って待っていた。右手の合谷に、是露の親指の感触がぼんやり残っている。それを左の手のひらで覆ってさすった。


 美化はその右手に僅かに残った感触すら、愛しく感じていた。


「合谷……か♡」


 すると、影山映莉が治療を終えて待合室に戻ってきた。


「おまたせっ!」


「影山ありがとねっ……」


 美化は影山映莉の耳元で囁いた。


「よくがんばりましたっ」


「うんっ!」


 2人はあまてらす鍼灸整骨院を出た。




「結局、雪はすぐ止んだね」


「そうだね。で、連絡先は? もらったの?」


「……もらいましたぁ〜♡」


 美化はにっこり笑った。


「えー? いつもらったのか分からなかったよー!」


「手のツボの時……合谷の時だよ!」


「あっ! あの時っ!? うまいなぁ〜椿原先生。やり慣れてるな……」


「もー! やめてー!」


「あははっ。冗談冗談!」


 美化はリュックにしまった是露に貰った紙を取り出してみた。


「うん♡ 連絡先書いてある。あと……ちょっ、メッセージも書いてあるしっ!」


「えっ! 見せて見せてっ!」


「だめですぅ〜!」


 美化はまた紙を丁寧にリュックにしまった。


「後で家でじっくり読むんだよん♡」


「あ〜! いいなぁ〜……」


「そうそうっ! どうだった? イケメン佐藤のマッサージ!」


「確かにみーちゃんの言うとおり神だねっ! ゴッドハンド! 肩が消えたみたいに軽くなったよ」


「さすが。イケメン佐藤様や……」


「でねでねっ! 私は佐藤先生の事……好きになっちゃいましたぁ〜♡」


「ぶっ! 影山氏っ! マジでっ?」


「うん♡ これからは1人でも佐藤先生を指名して来ようと思うよ」


「そっか……じゃあ、お互いがんばるっぺ!」


「んだなやっ! あははっ!」



 美化は影山映莉とグータッチした。


(……とは言ったものの、影山……ついこないだまで万亀君の事を好きって言ってのに……そっか! 確か失恋の傷を癒すには新しい恋……! 早く万亀君の事を忘れたいって事か……)


「じゃあ、帰ろっ! みーちゃん」


「うん。あっ! チョコの件も改めてありがとね! うにべるすに行っておいてよかったよ。宮古田カルチェにバカにされずに済んだし!」


「そうだったの? まぁ、これからもなにかあったら言ってね!」


「お願いしますぅ〜影山先生♡」


 2人の恋が新たな展開を迎えた2月14日。弱々しい冬の日差しが見守るように2人を照らしていた。
















 美化は帰宅すると大急ぎで部屋に行き、是露にもらった紙をそっとリュックのポケットから取り出した。


「な、何が書いて……あるの?」

(ドキドキドキドキドキドキ……♡)




 影山映莉の前ではチラッとしか見てなかったので内容はまったく分かっていなかった。


 紙にはこう書かれていた。


『渕山さんとの残ネルの話とっても楽しかった。もしよかったら早速明日会わない? 無理ならいいからね! 連絡待ってます。 椿原是露』


「明日? も〜先生、急だしー♡」










(……行くしかないっしょ!!)


 美化は全く迷わなかった。

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