第33話 桜のKIRIKABU
とはいえ今日はバレンタイン。
今日のメインイベントは是露先生にうにべるす……もとい、
「あー! もうっ! 今日はそれどころじゃないしっ! 一旦忘れようっ。宮古田カルチェのことは……」
そう言ってベッドに横になり、イヤホンで音楽を聴き始めた。
『気味の悪い〜♪念仏みたいな〜♪君の喋り方が愛し〜くてたまんないよっ♪wow♪』
最近お気に入りの曲、8人組の女性アイドルグループ「桜のKIRIKABU」の新曲、「うしろまえ♡」を繰り返して聴いているうちに、美化は眠ってしまった。
ちなみに、3年前に父を亡くしたその頃に、美化は桜のKIRIKABUの楽曲に出会い、気持ちを救われファンになったのだった。
部屋がディープマリンブルーに統一されているのも、桜のKIRIKABUの
メンバーのひとり、
美化はひと眠りして目が覚めた。
「あー、なんかめっちゃすっきりした!」
天井に貼られた西丘愛朱のポスターが目に入る。
まるで椿原是露との恋を応援してくれているような笑顔だ。
「
と言って、ふと時計を見ると、もう10時45分になっていた。
慌てて影山映莉に無事に予約が取れたことを連絡した。すぐに返事が来た。
ピコッ☆[了解です! じゃあ、いつもの信号のとこで合流ね!]
[らじゃー]ピコッ☆
(あー、近づいている。確実に近づいている。是露先生との時間が。連絡先をもらって、そしてチョコを渡す。その時が!)
「あー! もういっかい、うしろまえ聴いとこっ!」
桜のKIRIKABUの「うしろまえ♡」という曲は、恋に無関心な男の子を振り向かせるというのがコンセプトの一曲である。
曲名通り、後ろ向きな気持ちを前に向かせるという歌詞と、周りの人達と違ってもなにも問題はないという歌詞。その2つがギュッと詰め込まれた桜のKIRIKABU屈指の名曲。
その歌詞も曲調も、今の自分の背中を押してくれている。そんな気分になれたのだ。
そして、昼食の親子丼の味があまり分からないまま食べ終えると、部屋に戻り「ふぅっ〜」と息を吐き、UNIVERSの紙袋をリュックに入れた。
「よしっ!」
ついに出発の時間。
入念に歯を磨き、リュックを背負い、UNIVERSの帰りに立ち寄ったお店で買った、ピーチの香りのヘアコロンをシュッ!と、ひと吹きして髪に
「このくらいならいいよね! black holeとは違いますからっ」
影山映莉のアドバイスで、やはり可愛い香りは大事らしい。
首を左右に振って髪を揺らし、香りを確認してみた。
「にゃ、にゃんという可愛い匂いじゃあ。自分にときめくっつーの!」
美化はヘアコロンをもうひと吹きして出発した。
(やっぱ自分がいい匂いがするってテンション上がる。宮古田カルチェの気持ちも少しは分かる気がするけど、あれはつけすぎだし!)
14時10分。待ち合わせ場所に2人はほぼ同時に到着。
「おーす! 影山っ」
「おはっ。みーちゃん、あれちゃんとつけてきた?」
「もちのろんですよっ。めっちゃいい匂いがして、自分に興奮したし!」
「エロかわいいでしょ?」
「うんうんっ。そう! エロかわ!」
「じゃあ、みーちゃん行きますか!」
「う、うん。じゃあ着いてきてっ」
美化は影山映莉を先導して整骨院に向かった。すると暫くして……
「おー。なんかまた降ってきた♡ でも、これ、うそーっ!? めっちゃっ降ってきたしーっ!!」
バラバラと、今朝よりも多めに雪が降ってきた。
「も〜、少しならかわいいけど、ここまで降るとっ! にしてもなんで今日なわけっ!?」
「滅多に降らない雪が今日降るなんて、余計に忘れられない日になるね」
「ま、まあね。今日は風がなくてよかった〜。雪のわりにそんな寒くないしっ!」
「そうだね」
「そういえばさっ! 今朝予約取りに行ったら宮古田カルチェに会ったんだよねっ!」
「えっ? 宮古田カルチェも予約取りに来てたのっ?」
「そう、それで帰ろうとしてたら声かけられてさっ! 是露先生はやめとけっ! とか、負けないからっ! とか言われてさぁ〜!」
「えぇっ!?
「それで、宮古田カルチェもチョコレート渡すって言ってたんだよっ!」
「ふぅん、そうなんだ」
そして、雪降る中、あまてらす鍼灸整骨院にふたりは到着したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます