第32話 都田姉妹

 雪降る中、家に帰ると祖母が朝ごはんを作って待っていた。


「美化、無事に予約できた?」


「うんっ。なんとかできたよ。あっ、そういえば雪降ってるんだよ。なんかテンション上がるし!」


「そう。まっ、どうせすぐに止むでしょ」


「そうだね」


 美化の住んでいるB県は、雪が降ることは滅多にない。積もることなど数十年に1度あるか、ないかだ。


「さっ、ごはん食べなさい」


「はーい。いただきまーす!」


 納豆に焼き鮭、それと味噌汁。休みの日のメニューは特に決まってはいない。朝食をとりながら、美化は宮古田カルチェの言った『投了とうりょう』が、やはり気になっていた。


 なぜなら彼女がそう言い放った瞬間、『見たことがある顔』に感じたからだった。


(なんなのこの感覚? にしても投了なんて、やっぱり普通の人はなかなか言わないよね? 最近、んでるは言う人いるけど)



 その時!


「あっ! ああっ!!」


 美化はつい、大きな声を出してしまった。思い出したのだ。


「わあっ! びっくりしたぁ。どうしたの? 美化! 寿命が縮むじゃない!」


「あはっ、ごめん。納豆が鼻の穴に入ったもんですから」

(ちょっと待って! マジで? えー、宮古田カルチェ、宮古田、都田みやこだ!? 『都田姉妹』? 嘘でしょ?)


 美化は自然と朝ごはんを食べるスピードが上がった。


「まったくー! また早食いしてっ!」


「ごちそうさまー!」


 美化は2階に駆け上がった。



 部屋に入り、昔の将棋雑誌を引っ張り出そうかと思ったが、とりあえずスマホで検索してみた。



 [将棋 都田姉妹]



「まさか、だよね……?」


 スマホに映し出されたのは、10年前、将棋の天才姉妹として騒がれた女子高生の都田姉妹。


 姉の都田みやこだ千恵ちえと妹の都田みやこだ奈々なな


 妹の都田奈々は、現在も女流棋士として活躍している。姉の都田千恵は、女流棋士にもなっていない。


「その後のことは、なんにも記事になってない……か」


 女子高生の都田千恵を、美化はじぃ〜っと目をこらして見続けた。


「化粧取ったらこんな顔かなぁ? でも、やっぱり似てるよ。うん」


 都田姉妹の姉、都田千恵が実は宮古田カルチェなのでは?


 そう思ったら美化はかなりテンションが上がった。実際子供の頃、『都田姉妹のようになりたい』と思って将棋を頑張っていたからだ。


「まさかね〜、都田姉? たぶん宮古田カルチェって源氏名げんじなだよね? 都田千恵、ちえ、かるちえ、カルチェ?」

(もし、そうなら、なんで女流にならずにキャバ嬢なんかやってんの? 高校最強だった人なのに……)


 美化は宮古田カルチェに会って、本当に都田千恵なのか、早く確かめたくなっていた。

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