第3章 バレンタインがやって来る

第26話 鳩猫バラバラ事件

 翌朝。


 美化は目覚ましの新世界を止め、もぞもぞとベッドから起き上がる。本当はもう少し寝ていたい。そんな顔だ。


(是露先生の家に行った時のことを想像してたら、なかなか寝れなかった。私ってば完全に恋する乙女じゃん)


 洗顔、ルービックキューブ、将棋の駒並べ、それらを済ませてテレビをつけた。情報番組を聞きながらストレッチを開始。


(いきなり家に行くなんて、影山はなんて言うんだろ? 怒るかな? 私だって残ネルがなければ行かないよお。困ったなぁ……)




『では次のニュースです。B県K市の公園で、鳩や猫のバラバラの死骸が多数見つかるという事件が発生しました』








「B県K市? ここじゃん!」


 美化は慌ててテレビの画面に目を向けた。テレビには美化が子供の頃よく遊んでいた公園が映っていた。


「うそ? 『みつばち公園』じゃん。ひっどーい! なに考えてんの?」


 美化はストレッチを終え、嫌な気分で1階へ降りた。


「おはよう。ねえ、おばあちゃんニュース見た?」


「おはよう。えっ、ニュース? なんの?」


「あそこの公園っ。ほらっ、私が子供の頃よく行ってた!」


「あー! みつばち公園? それがどうしたの?」


「鳩とか猫がバラバラにされて殺されてたんだってっ! それをさっきめざましでやってたんだよ!」


「かわいそうに。酷いことするねぇ」


「マジであたおか。でもそんなヤヴァい人がこの辺にいるってことでしょ? ガチで怖すぎる」


「今日は学校、その話題で持ちきりでしょうね」


 母がコーヒーを飲みながら言った。


「だろうね」


 母の言ったとおり、学校では鳩猫バラバラ事件の話で生徒たちが盛り上がっていた。


「お前だろ! 犯人ー!」


「ちげーよっ! そう言ってる奴がいちばん怪しいんだぜっ!」


「ふふふっ! 実は俺がやったんだ! 次はお前だあっ───!!」


 そんな感じで女子に触ろうとする奴がでてくる始末。


「きゃ──♪」


 でもまぁ、女子も楽しそうだからよしとしよう。


 そんないつもより騒がしいクラスの中でも、美化の頭の中は椿原是露の事でいっぱいだった。


「はぁ♡」

(今頃マッサージしてるのかなぁ? 指名だって宮古田カルチェだけじゃないよね? 先生モテそうだもんなー)


「はい! 静かに──っ!」


 担任がいつもより声高こわだかに教室に入ってきた。


「えーっ、まず、みんなも知ってのとおり、昨日近所の公園で鳩や猫の死骸が多数見つかるという大変ショックな事件がありました。今のところ不審者などの報告は入っていませんが、みんな帰宅時などは特に気をつけるように!」


「はい!」


「では、ホームルームを始めます」









 授業がすべて終わる頃には皆、今朝のニュースなど忘れているようだった。

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