第22話 black hole

 あまてらす鍼灸整骨院は、宮古田カルチェのつけてきた香水『black hole』の香りで充満していた。


「black hole。前のよりいいっすね! 俺、これ好きっすよ」


「ほんとぉ〜? じゃあしばらくはこれ愛用しよっかな♡」


(確かに この前のよりはマシだけど、体調悪い人がいたらさらに悪くなりそじゃない? 是露先生はぶっちゃけどう思ってるのかな?)


 実際のところ、椿原是露をはじめ、他の先生達も美化と同じ意見だった。


 しかし、院長も頻繁ひんぱんに通ってくれている宮古田カルチェに苦言をていする事はできなかった。


「でも、是露先生〜全然お店来てくれないじゃ〜ん! もぅ〜♡」


「すんません。お酒もあまり飲めないもので、だからそういうお店の雰囲気とかも苦手で……」


「佐藤先生と一緒でもいいから1回来てよ! 絶対楽しいからっ♡」


「あははっ……」


(是露先生 完全に困ってんじゃん! で、お酒は弱いんだ。ふむふむ……)


 その後は宮古田カルチェの最近ハマってるドラマの話や仕事の愚痴ぐちなどが続いた。そして、宮古田カルチェのマッサージは終わった。


「お店無理ならプライベートで遊ぼうね〜♡ はい、連絡先ね!」


「ど、どうもっす!」


(連絡先? そんなん渡すって事は宮古田カルチェは是露先生のことが好きって事なの? まじかっ?)


「ありがとー! 超軽くなったし。今夜もがんばれるわ!」


「よかったっす。じゃあ次、電気いきましょう」


(終わった? って事は次 私の番だよね? ひゃあー!)


「電気外しまーす。マッサージいきますね〜」


 受付のお姉さんが そう言いながらカーテンを開け、美化の荷物の入ったカゴを椿原是露に渡した。美化は緊張しながらベッドから降りた。


「じゃあ、奥のベッドいきましょー」


 椿原是露は美化と目を合わす事なく言った。

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