第18話 真の敵

 さてさて、『聖なる神の化身ネル・フィード』の暗殺を目論む『悪魔の王ヴァルボロ』を倒しにやって来た勇者ミケ。『魔王の間』の扉を開けようとしたその時、新たな敵が現れたのだった!


「本当に誰やねん! 許せん! ボコボコにしてくれる!」


 美化はラスボス前のもう一戦を覚悟した。ところが意外な展開が待っていた。



【勇者ミケ。待ってくれないか?】


「ん? 敵じゃない? なんかソフトな口調だし♡」


 美化はホッとした。


【俺の話を聞いてくれ。俺の名はバミューダ。ヴァルボロ様に仕える者】


【実はこの扉の向こうにヴァルボロ様はもういない】


【既に倒されてしまったのだ】


「えっ? 嘘っ、誰に?」


【ネル・フィードに】


「なになに? どゆこと?」


【真に倒すべきはネル・フィード】


【奴は人間を根絶やしにしようとしている】


【貴様も知ってのとおり、】


【我々悪魔の食料の一部は人間の血、肉……中には魂を食べる種族もいる】


【ネル・フィードは人間を根絶やしにした後、人間を食べられなくなり弱まった悪魔族を全滅させる考えだ】


「へぇ、そうなんだーって、嘘でしょ? あのかわいい神の化身のネルちゃんが? そんな残酷な事を? はっ! 故に『ネル・フィード』って事?」


【ネル・フィードは強い……】


【この100年程で力は数倍に跳ね上がった】


【おそらく……】


【禁断の『神による人食い』が行われていたのだろう】


「神の人食い? も、もしかして、あの信者が消えていなくなる事件って邪忍の仕業しわざではなかったって事? やっぱり九郎くろうは嘘をついていなかったんだっ!」


【そんなネル・フィードにとって、ヴァルボロ様は敵ではなかった】


【数分で決着はついた】


【分かるか? この扉の向こうには、ネル・フィードが待っている】


【最後のごちそう……】


【見事に勇者となった貴様を食べる為にだ!】


「勇者の私を食べる……?」


【この数ヶ月の旅で貴様の勇者としての力は完全に覚醒。さまざまな経験を積み、レベルも格段に上がった】


【悪魔の自分が言うのもなんだが、勇者ミケ、貴様ならヴァルボロ様を倒せたかも知れない】


【だが……】


【今のネル・フィードは無理だ】


【人を食った神。もはや聖なる存在ではない】


邪神じゃしんだ……】


「『邪神ネル・フィードちゃん』って事? ってない? バミューダちゃん」


【ネル・フィードの目的は世界の再構築。目障めざわりな悪魔を排除し、優秀でさらにうまい新人類を量産して食べる……】


【人間のうまさを知ってしまったおろかな神の愚行ぐこうよ】


【奴は今の人間の味ではもう物足りないようだ】


【勇者ミケよ】


【貴様はネル・フィードの味見の為に

利用されたにすぎん】



「じ、自分で倒せるヴァルボロの討伐とうばつに、わざわざ勇者の力を与えて行かせて、覚醒したところでラストに味見? おいしかったら新世界で勇者量産って事? 信者にしてつまみ食いを繰り返す的な? それはヤバまるだわ」



【引き返せ、勇者ミケ。今の貴様ではネル・フィードに傷はつけれても倒せはしない】


【食われるぞっ!】


「ひ、引き返せ? 本気で言ってんの? ここまで来るのにどれだけ苦労したと思って……」



 ギギィィイ……



「あっ、扉 開いたし」


【ごきげんよう。勇者ミケ】


 聖なる神の化身……のはずのネル・フィードが魔王の間から出てきた。

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