第14話 残ネルを語る先生

 うとうと、うとうと……


 美化は快楽の波に揺らされて、完全に落ちる一歩手前の状態に。すると、そこに男性2人の会話が耳に溶けこんで流れてきた。











 はい



 

 




 はい



 







 ちょっと前に手に入れて










 


 ええ 











「……で、先生は最近ずっと残酷のネル・フィードをやってるわけだ?」


「そうなんすよ、やっぱ神ってますねぇ。たまんないっす!」


「あれねー当時オレも持ってたけど、いろいろと貸したり借りたりしてるうちにさぁ〜どっかいっちゃってさぁ」


「マジっすか?」


「まさか、今みたいな時代が来るとはガキの頃は想像もしてなかったしね。ZERO WORLDのソフトがそんな何万とかで取り引きされるなんて思わねーもん」


 半分寝ていた美化の耳に聞こえてきていたのは、隣でマッサージをしている先生と患者の会話だった。


(残ネルの話、しちょる?)


 美化は隣の2人の会話に興味津々で完全に目が覚めた。


「でも、残ネルといえば雷帝らいていのとこのストーリーがよかったなー」


「あー分かります! あと自分は邪忍じゃにんの里の魔九郎まくろうのとこっすかねー!」


「はいはい。魔九郎ね!」


(えっ? ちょっとぉ♡ どっちも最高なんですけど! 分かるしんよっ♡)


 美化は心の中で2人の会話に混ざっていた。本当は起きて混ざりたいのを我慢しつつ。


「妹の九千流くちるがマジで泣けたもんね」


(ええ、泣きましたよ。九千流の兄と里を思う気持ち。邪忍である事への葛藤。結局、魔九郎も九千流もに殺されたんだッ!)


「ほんと救いのない話だったけど、それがリアルでよかったなー」


「そうっすね! あれで天滅てんめつへの怒りが増しますからね」


(そうそうっ! くそ天滅ですよ!)


「天滅倒すのマジで苦労した記憶あるわっ!」


「そうっすねぇ。竜牙りゅうが天滅てんめつ、最期の自爆技……」


現世げんせそくかいっ!! あはははっ!」


 男、2人はハモった。


 (現世・即・壊っ♡)


 心の中でしっかり美化もハモっていた。


「はーい! じゃあ今度は仰向けになりまーす! 渕山さ〜ん! 仰向けになりますよ〜!」


 肩をトントンされて、はっ! とマッサージ中だった事を思い出した。


「はいー!」


 びっくりして返事が女芸人のやすこっぽくなってしまった。はいー。


 仰向けになりながら、美化は隣の2人をチラリと見た。


 患者の方は太っちょの色白の中年男性。先生はイケメン佐藤とは感じが違う、少し大人な感じのこれまたイケメンだった。


 無造作な髪型、顎髭あごひげ、筋肉質な腕に浮いた血管。


(あのちょいワル兄さんが残ネルをやってるのか。ふーん)


 美化は仰向けになった。


「じゃあ、さらに首の後ろほぐしていきますよ」


 イケメン佐藤の温かい手が首の後ろにスッと入ってきて、首を指で上に持ち上げるようなマッサージが始まった。


「あっ、あー……」

(超気持ちいい♡)


「大丈夫ですか?」


「はい。気持ちよすぎて……」


「ははっ、よかったです。これでだいぶ良くなると思います」


 そして、施術は仕上げに入る。


「じゃあ、最後に首をひっぱりますので、痛かったら我慢しないで言って下さいね」


 ぐぅっと頭が持ち上がり、首がひっぱられる。それにより縮こまっていた頚骨けいこつが伸び、さらに血流が増したのを美化は感じた。


「はいっ。お疲れ様でした。ゆっくり起きて下さいねー」


 美化はなかなか起き上がれなかった。このまま寝ていたい。ワンモアプリーズ。そんな気持ちだった。まさに天国。


 佐藤に支えられながらなんとか起きると、隣のベッドにはもう誰も居なくなっていた。


(ど、どこ? さっきのセンセ……)

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