第2章 運命の出会い?

第13話 イケメン佐藤の神の手

「美化、そろそろ行くよー」


 ソファーで寝っ転がって詰将棋つめしょうぎの本を見ていた美化は飛び起きた。


「はいなー」


 点滴のおかげでだいぶ具合がよくなった美化は軽やかだった。


 あまてらす鍼灸整骨院は車で10分かからないところにあった。自分とあまり関係のないものは、近くにあっても案外気づかないものだと美化は思った。


 バタンッ!


 2人は車から降りた、


「思ってたより可愛い外観だね」


「そうなのよ。ほら、そこの花壇見てごらん。パンジーがたくさん!」


 美化は花壇に咲く花をしゃがんでよく見た。かわいかったので写真を撮ることにした。


 カシャ


「この花パンジーって名前なんだー。私は花の名前と魚の名前が全然おぼえらんないっすよ」


「美化はそれに限ったことじゃないでしょ。こないだ豚肉食べながら、牛肉まいうーって言ってたし。にゃはは!」


「う、うっさいんですけど……」


 2人は花を愛で終え院内へ。自動ドアが開き、受付のお姉さんの笑顔が2人を出迎えた。


「あっ、こんにちは〜」


 お姉さんのかわいく、透き通った声。それに対し、母と美化も負けるものかとよそ行きの声で対抗した。少なからず、女の意地もあった。


「こんにちは〜」


「こんにちは〜予約した渕山です〜」


「あっ、は〜い。今日は娘さんですねー。ではこちらに、分かる範囲で症状の記入をお願いします」


「はーい」


 美化は予診よしんひょうの紙を渡された。


 名前、住所、生年月日、電話番号を書き、続けて、いつどこで、どんな症状が出たのかを書く。


 そして、人体図に自分の痛みのある箇所を記す。美化は首肩周りを◯で囲った。すべて書き終え、受付のお姉さんに予診票を渡した。


「少しお待ち下さいねー」


 そう言われ、座って待とうと思った美化の背中に爽やかな風の如き声をかけてきた人物がいた。


「渕山さーん、どうぞー!」


 すると母が小声で言ってきた。


「美化、あれが佐藤先生だよっ♡ 今日もイカしてるわん♡」


 振り返り、治療室の入口を見ると、そこには身長180cm、サラサラヘアーにぱっちり二重のモデル系イケメンが、爽やかオーラを全身に纏い美化を見つめながら立っていた。


「はーい」

(指名もしてないのにイケメンの神の治療が受けられるなんて超ラッキー!)


 美化は小走りで入り口へ向かった。


 治療室に入るとベッドが8台、左右に4台ずつ分かれて並んでいた。


 右手の4台のベッドはカーテンで仕切られている。左手の4台のベッドに仕切りはなく、いちばん奥でマッサージをしてもらっている患者がいた。


 カーテンで仕切られている方にはのぞくと電気の治療機らしきものが置かれているのが見えた。


「こんにちはー!」


 今度は中にいた先生たちの大きな挨拶が部屋に響いた。


「こ、こんにちは」


 美化は少し緊張した。そして仕切りのない奥から2番目のベッドに座らされた。


「渕山さん、首と肩が痛いんですね?いつからですか?」


 イケメン佐藤の問診が始まった。


「今朝からです。頭がフラフラして、病院で診てもらったらひどい肩こりだと言われて。その時肩を押されてあまりの痛さにびっくりして。それまではまったく気づいてなかったです」


「自覚はなかったと。今もフラフラしてますか?」


「いえ、点滴をしてもらったらフラフラはなくなりました。でも凝りをとらないとまたなるって言われました」


「そうですね。原因を取り除かないと確かにまたなっちゃうかも知れませんね。なんか肩が張るような事はしましたか? 思いあたることはないですか?」


「勉強のしすぎだと思います……」

(おほほ。ゲームでありませんのよ)


「あらら。大変ですね。最近はスマホやパソコンも勉強に欠かせない世の中ですしね」


「そうなんです。大変なんです」


「では、ベッドにうつ伏せで寝てもらって、筋肉の具合診ていきますね。マッサージは初めてですか?」


「はい。初体験です」

(イケメン佐藤、頼んだぞよ)


 美化は言われたとおりベッドにうつ伏せになった。


「枕におでこ付けて下さいね」


「はい」


 胸当てのマットと枕の間に顔がスッポリはまった。そして足首の下にも足枕が入り、今の時点でかなり気持ちがいい。


 続けてイケメン佐藤が美化にマッサージ用の大きなタオルをかけた。


「首と肩が痛いんですけど全体的にほぐしていきますので。マッサージは初めてという事なので軽めにやっていきますけど、力加減などあれば遠慮なく言って下さいね」


「はいっ」


 イケメン佐藤の『神のマッサージ』が始まった。


 臀部でんぶから太腿ふともも、ふくらはぎ、そして足の裏。軽快なリズムで揉みほぐされていく筋肉。


「くうー♡」

(おい! 私の筋肉っ! 気持ちいいのかい? 気持ちよくないのかい? どっちなんだいっ? 『気持ちいいっ!』 パワー!)


 美化はあまりに気持ちよくて、脳内でなかやまきんに君をやってしまう程だった。


「大丈夫ですね〜?」


「はい〜、気持ちいいでーす」


 腰、背中。そして肩甲骨まわり。


(痛いけど気持ちいい! やば、よ、よだれがっ!)


 ずびっ


 美化はよだれが垂れそうになって、慌ててすすった。


「肩すごい硬いですよ〜。これはいけないですね〜」


「そうですか?」

(ヤバい。寝る。気持ちよすぎ♡)


 しばらくすると、美化はウトウトと半分眠ってしまった。

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