第12話 めちゃ痛し

 今、美化にはめまいが良くなる点滴がされている。


 午前中の受付ギリギリに滑り込んだ為、ベッドのカーテン越しに母が看護師に謝っている声が聞こえた。


「すみません、ホントにー」


「いいえー、大丈夫ですよ」


 美化は無事に治ることを祈りながら再び眠った。






「はい、点滴終わりますねー」


 看護師のその声で目を覚ました。


 30分ぐらい爆睡していた。


「ありがと……ござ……ます……」

(あれ? なんか喋りにくしっ! これって脳がヤヴァイんじゃ!?)


 ただの寝不足の症状に美化は勝手にビビっていた。


 ベッドから降りて、診察室へ向かって歩くと、さっきまでの頭のふらつきは嘘みたいになくなっていた。


(な、治ってる! 点滴すごっ! よしっ! 美化ちゃん復活だじょー!」


 さっきまでの不安が消えた美化は、院長の前の椅子に軽快に座った。


「ありがとうございました。かなりいいです!」


 頭を下げてそう言うと、院長はしかめっ面で切り出した。


「君、ちょっと後ろを向いてくれる?」


「あっ、はい」

(えっ? なに? どゆこと? まだよくない的な?)


 美化はまた不安になりつつ後ろを向いた。院長が美化の肩を親指でグッと押した。


「いったぁいっ! めちゃ痛しっ!」


 あまりの痛さに声が出た。


 看護師が笑顔で見ている。


「こういうことなんだよ」


「えっ?」


「君の肩と首、あと肩甲骨まわり。筋肉がり固まっているんだよ」


「そ、そうなんですか?」


「だから脳への血流も悪くなってる。だから頭がフラフラしてめまいが起きたんだよ」


「リアリーですか?」


「お母さんから話は聞いたよ。ここんとこ夜中までゲームを続けざまにやってるらしいね?」


「異論はないです……」


「だいぶ力が入ってしまっていたみたいだね。少し控えるように」


「かしこまりました」


「で、今は点滴してめまいはだいぶ落ち着いたとは思うけど、この凝りを取らないとまたなるからね」


「そ、そんなバカなっ!」


 美化はガクっときた。


(あと少しで残ネルをクリアできるのに! なんとかしてよ! ちょび髭ドクター!)


 すると側にいた母が院長に尋ねた。


「整骨院なんかで診てもらったらよろしいでしょうか?」


「あー、そうですね。この凝りを取ってもらえばめまいの症状もなくなると思いますので、行って診てもらって下さい」


「分かりました。ありがとうございますぅ。ホントにギリギリですみませんでしたー」


(私を例の整骨院に連れていく気だな。残ネルのエンディングも早くみたいし。ここは身を委ねるとするか……)


「じゃあ、いったん帰るよ」


「はーい」


 そして、母は車に乗るとスマホを取り出し電話をし始めた。


「あっ、こんにちは〜。先日診て頂いた渕山ですけれど。今日は娘を診て頂きたくて。はい。予約をお願いしたいのですが、はい。午後の3時とか4時とか。ええ。そのへんであいてます?」


 美化は3時30分の予約で整骨院に行くことになった。



 帰宅し、少し遅めの昼食をとりながら、美化は整骨院について母に聞いてみた。


「まみーは院長に診てもらったの?」


「違ったよ。受付に予約表があったけど、院長はほぼ全部の時間が埋まってたね」


「院長やっぱ人気なんだ」


「さっきみたいに電話でも予約はとれるんだけど、それだと指名はできないんだって」


「どうすれば指名できるの?」


「指名するには直接、予約表の希望時間の枠に自分の名前と指名する先生の名前を書きに行かなきゃいけないんだって」


「だるー」


「だから、だいたいの人は電話で予約してるみたい。先生は誰になるか分からないけど」


「まみーは何先生だったの?」


「佐藤先生! マジで超イケメンだったわよん♡」


「佐藤先生? イケメンで神の手の持ち主か。私は治してくれれば誰でもいいけどさー」













 まさかその整骨院に『運命の出会い』が待ち受けているとは、この時の美化はまーったく考えてもいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る