第11話 フラフラの美化

 美化が目を覚ますと、時刻は午前11時を過ぎたところだった。まだ頭がボーっとしていてフラフラする。


「なにこれ? めまい?」


 軽い吐き気もおぼえた。今までに経験した事のない感覚に不安の波が襲ってくる。


「さすがにやり過ぎた……」


 残ネルのBGMが、頭の中で繰り返し鳴っていた。


 1階に降りると、今日も休みなのか母がいた。こたつに入って優雅にコーヒーを飲みながら、スマホでYouTubeを見ている。


「学校には連絡しといたよ」


「ごめん。そういえば腰、良くなったの?」


 美化がそう聞くと、母の表情がとたんに変わった。


「そうなのよっ! 昨日はさほど変化を感じなかったんだけどさ、今朝起きたらなーんにも痛くないってわけ! フウーッ!」


 母はテンションが上がり、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEのランニングマンを踊り出した。


「やめいっ! また痛くなっちゃうってば!」


「大丈夫だってー! にゃはは!」


 母の下手くそなランニングマンを見て、美化の具合は加速度的に悪くなった。


「ちょ、自分 今……とても具合が悪く……頭がおかしくて、フラフラ……めまいがするんだけど……病院行きたいかも……」


「えっ!? 早く言いなよっ!」


 いつもの美化との違いにただ事ではないと感じた母は、美化を自分が定期的に腰を診てもらっているペインクリニックへ連れて行く事にした。


「まったくもうっ! ゲームのやりすぎで具合が悪くなるなんて、恥ずかしいったらありゃしないよっ!」


「め、めんぼくなっしんぐ……」


 美化は力なく項垂うなだれた。


 クリニックへ行く車内。母の大好きな綾小路きみまろの漫談が流れていた。


『久々のファンデーション、行き着く先はシワの中っ!』


「にゃはははッ! きみまろ最高♡」


「はい……そうですね……」

(この人、本当に娘の事を心配してくれているんでしょうか?)


 美化は若干ムカついていた。

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