第9話 回り出す歯車
母が整骨院に電話をしていたその頃、美化は学校に向かい自転車を漕ぎながら影山映莉の事を考えていた。
(影山は今日、どんな気持ちで学校に行って、どんな気持ちでクラスメイトの
「今朝もいないかなー」
影山映莉とは毎朝 特に待ち合わせをしている訳ではない。昨日はたまたま一緒になったのだった。
昨日より冷たい風が吹いている。
3つ目の信号の赤で今日も止まった。右を見ると遠くに影山映莉が見えた。向こうも美化に気づいて立ち漕ぎになった。そして笑顔で合流。
「影山、おは!」
「おはよ。LINE全然既読にならなかったねー」
「ごめん! ゲームに夢中になりすぎちゃって。見たのが夜中の3時だったんよ」
「3時っ? こないだ言ってた残酷のなんとか?」
「うん。超面白いんだよっ!」
「ふっ、それでその顔……」
「あはは……」
(きょ、今日の私ってそんなブスなわけっ?)
信号が青に変わった。
しかし、2人ともこの青で渡るつもりはなさそうだ。
「とりあえず、残ネルの話は置いといて! 影山君!」
「はい……」
「君はまだ恋をするつもりかね?」
「はい。たぶん……」
「私は元々恋愛に興味はなかったのだが、君を見ていたら余計になくなってしまったのだよ」
「えー! なんで?」
「好きな人がそもそもできないし、告白してフラれるのも嫌だし。今は恋愛よりもしたい事があるし……ってとこかな?」
「…………」
信号が赤に変わる。
「私もセブンティーンだし、君の恋に対する『積極さ』ってやつを見習うべきなのかとも思ったよ」
「うん」
「だけど恋愛は少なくとも今の私には必要ないかなーって。でも影山の恋はこれからも応援するよ。もち」
この数ヶ月、影山映莉という圧倒的存在に影響を受け、今まで全く考えた事もなかった恋愛について自分なりに考える事ができた。
そんな自分のちょっとした変化に、一定の満足感を得る事ができたのも、美化には大きな収穫だった。
「……でも恋はした方がいいと思うよ。恋は素晴らしいんだ」
影山映莉が空を見上げて言った。
今までに見た事のないその顔に、美化は少し驚いたが
「あっ、でも、みーちゃんが恋をしないって決めたなら それはそれでいいと思う。うん、実にいい。なんちゃって。あはは」
そう言うと影山映莉はいつもの笑顔に戻っていた。
「私は将棋とキューブとレトロゲームがあればそれでいいもんね!」
美化はやっぱり影山映莉の笑顔が落ち着いた。
「でも、みーちゃんはモテると思うんだけど……」
ボソっと影山映莉が呟いたその言葉は、2月の冷たい風にかき消された。
そして信号が再び青に変わった。
「よし! 行こっ! 眠いけど……」
「みーちゃん授業中、絶対寝るね!」
「足ピクだけは気をつけないと。あー、早く帰って残ネルやりたいっ!」
「はいはいっ」
この、ひとりの少女を
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