第7話 ニアは何も言わず、ぎゅっと目を瞑った。

 怒声が俺に向けられたものではないことを祈りながら、恐る恐る振り返る。もしかしたらモンスターに向けられたものかもしれない。いや、モンスターに「おい!」なんて言わないか。言うかな。俺は言わない。




 振り返ると、100メートルほど向こうに松明たいまつを持った巡回兵がこちらに向かって走って来ている。




 これはまずいな。俺は急いで走り出す。俺は疾の電圧へシフトチェンジして走る時、回転する円をイメージする。そうすることで、縺れることなく走ることができるのだ。それは必要な儀式のようなもので、こんな状況であっても欠かすことはできない。




 俺はニアをお姫様抱っこしながら、広い広い大草原を全速力で駆ける。この速度に追いつける者は村にはいないはずだ。100メートルを5秒で走り抜けるヒーターより今の俺は速いのである。




 問題なのは、ニアと俺が一緒にいることが村の連中に明らかになってしまったことだ。巡回兵は松明を持っていたから、俺が誰かを抱っこしていることは目に見えただろう。仮にそれがニアであることが分からなかったとしても、ニアは既に村にはいない。それは時間と共に明らかになる。




 俺はさっさと走り出すべきだったのだ。村の外に出たことで少し油断してしまった。




 振り返ると、巡回兵は見当たらなかった。領主邸に報告へ行ったのだろうか。あぁくそ、まずった。




「しくじっちゃたわ」そう言うニアの前髪とポニーテールは、強い風に吹かれ揺れている。

「あぁ。とは言えこの馬車は君を無事にラハンまで送り届けるよ」と俺は前を向いて答えた。

「傷1つでも付けたら、賠償金をたんまり貰うわ」

「ぞっとしちゃうな」




 巨大森林に到着するまで、俺は息を切らせず走った。そのまま森の中を掛ける。手ごろな大木を見つけた俺は、その根元で立ち止まった。というか、この大木には登ったことがある。根元から見上げるとてっぺんが見えないほどその木は高い。木の幹も大人数十人が手を繋ぎ合わせてやっと囲えると言うほどの太さだ。




「俺が良いって言うまで目を瞑って、下を見ないようにして」と俺は言った。




 ニアは何も言わず、ぎゅっと目を瞑った。




 力の電圧に切り替えて俺は一番近くにある木の枝に飛び移る。木の枝も村に生えている木の幹の3倍ほども太く、人間2人が勢いよく着地してもびくともしない。




 俺はどんどん木の枝から枝へ飛び移り、頂上を目指す。




 5回飛び移ったところで、俺はその大木の頂上に到着した。




 中心まで移動した俺は「もう目を開けても良いよ」と言った。


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