追放されることになったので、幼馴染に最後の挨拶をすることにしたら少し、いや、かなり様子がおかしい。
第3話 「昨日、マートンにこう言われたのよ。お前は今日から僕の許嫁だって。おかしな話よね。18にもなってから許嫁だなんて」
第3話 「昨日、マートンにこう言われたのよ。お前は今日から僕の許嫁だって。おかしな話よね。18にもなってから許嫁だなんて」
「そういや、ニアの話がまだだった」と俺は言う。
「そうだったわね。でも、今となっては」ニアはそう言って村の中心にある領主の屋敷に寸刻目を向け、再び俺の顔を見た。
どうやら彼女の話には、あのくそ領主が関係しているようだ。
「教えてくれよ。気になるからさ」
「昨日、マートンにこう言われたのよ。お前は今日から僕の許嫁だって。おかしな話よね。18にもなってから許嫁だなんて」
「へー、そんなことが」
あれ? ニアの表情が突然険しくなったぞ。
「へーって、それだけ?」ニアは両手を腰にあてた。
「違う、違うよ。一大事だなこりゃ」俺は慌てて訂正する。
マートンとは、俺に追放を言い渡した領主の息子である。年は俺たちと同じくらい(俺やニアと同い年かもしれないし、一つ年下かもしれないし、あるいは一つ上かもしれない)で、父親にそっくりな性分を持っている。つまり、ろくでなしってことさ。
「マートンは、君のことを攫いに来るかもな」と俺は言った。
「そうかしら? 許嫁も私じゃなきゃいけない理由はないと思うけれど」
「あいつ、ニアが思ってるよりずっと執念深いぜ」
そう、あいつは執念深いのだ。しつこい。厄介なのが結局どこへ逃げたところで、千里眼があれば彼女の居場所は突き止められてしまうということだ。
「もし、マートンが私のことを奪いに来たら、ファイはどうするの?」
「全力であいつを追い返すよ、その時は」
「ふうん、そうなんだ」
さて、と俺は空を見る。今は夕方に差し掛かったところで、そろそろ日が落ち始めようという時間帯だ。
俺とニアはその周囲に誰もいないことを確認した。そもそもここは村のはずれにある場所だから、ほかに誰かがいるとは考えにくいのだが、念を入れて損をするということはない。
「村を出るのは、暗くなってからが良いな」俺はまた空を見上げる。
「えぇ、今はまだ明るいわ」とニアは言った。
空は夜の色を帯びつつある。ただ、それはまだ中途半端で完全ではない。そうだ、と俺は思った。夜まで隠れるのにちょうど良い場所。ぴったりのところがあるではないか。
「丘を下りたところにある、廃墟の小屋に夜まで隠れていよう。覚えているかい?」それはいつからこの村に存在するのかも分からない、古い小屋だ。
「私とあなたで、子供の頃かくれんぼした場所ね」とニアは言う。「もちろん覚えているわ」
俺の中で、この村でのニアとの思い出が幾つか駆け巡っていった。この村に感謝していること、それは俺を彼女と出会わせてくれたことだ。他にあるかな。うーん、ないな。
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