第3話 コロナ菌探査装置
そのうちインフルエンザと同じようになるだろうと言われていたコロナは、弱体化しながらも変異を繰り返し、3年経っても収束しなかった。経済を止めるわけにいかないと人々は通常の生活を続け、検査する人も減り始めた。もはや遠い記憶となりつつある感染アプリは役にたたず、どこに感染者がいるのかわからない。多くの人が普通の生活をはじめたものの、完全に普通の生活に戻すことができない人も少なくはない。
そこに、ある企業が目をつけた。コロナが収束せず感染を続けるのであれば、感染者がわかればよいのだ。検査などせずに可視化する方法があれば、感染者を避けることができる。
僕は届いたばかりのメガネをかけて、電源を入れた。
普通の眼鏡と何一つ変わらない。
家の中には僕しかいないのだから当然だ。
僕は外に出た。緑色の数値が浮かび上がる。
0、0、0、30、50、0、0、50……ついにいた! 100%
そう、これは感染しているであろう《・・・・》人の感染確率を数値で表わす眼鏡だ。
メカニズムは難しくてわからないのだが、コロナに感染して発症している人を数値で表示してくれる。的中率は、50%と言われている。つまり、この100%と表示された人は、50%の確率で陽性者ということになる。ある意味、画期的で、ある意味ひどい製品でもある。
しかも、36万円もする高額商品なのだ。
だが、一度購入すれば、その後もアップデートして利用できるということだったので、興味半分、使い物になればめっけ物と思って貯金を崩して購入した。的中率50%では、ほぼ使いものにならないが、それでも、面白半分に外出するときは使用していた。
「アップデートが完了しました。」
ある日、充電していると突然、アップデート完了の音声が流れた。
『本当にアップデートされるんだな。』
僕はどれくらいの的中率になったのかメーカーサイトで調べてみた。アップデート後の的中率は、80%とぐんと上がっている。そして、もう何派目かわからない感染爆発が起こりはじめた頃、僕は電車で少し遠くまでいかなければならなくなった。
アップデートしてから使用していなかったので、僕は眼鏡をかけて家を出ることにした。家から駅までの間はあまり人とすれ違わず、時折すれ違う人は皆、30%程度の表示だった。
『それほど感染している人はいないな。』
僕はそう思いながらも、駅にはかなりの人がいると、眼鏡をしっかりと掛け直した。少しでも陽性確率の低い車両に乗っていこうと決めていたからだ。扉が開き、僕は乗ろうとして、瞬間的に足を止めた。
50%、80%、99%……。
次から次へと高い数値が目に飛び込んでくる。これでは自分の場所を確保できない。僕は急いで隣の車両に飛び乗った。
70%、85%、92%……。
愕然とした。なぜ、これほど陽性確率が高い人が平気で電車に乗っているのだろう。隣りに座っている人はマスクから鼻を出して居眠りしている。ずっとあの状態で感染しないのだろうか。僕は人ごとながら心配になった。電車が駅に停車する度に僕は車両を変えたが、どの車両も同じだった。
「三枝町までお願いします。」
0%と表示された運転手のタクシーに乗り込んだが、僕は念のため窓を開けてもらって帰途についた。手を洗い、うがいをし、着ているものをすべて洗濯機に放り込んで、シャワーを浴びた。
都内だけで1日の感染者数、2万8千人と言われているが、実際はその何倍もの人間が感染しているのかもしれない。僕は消毒し終えた眼鏡をじっと眺めた。80%の確率であの人たちが陽性者だったのだ。飲食してないとはゆえ、同じ空間にいたことは間違いがない。しばらく体調の変化に気をつけよう。
「アップデートしました」
それからしばらくして、感染が落ち着いてきた頃、再び、眼鏡のアップデートがかかった。感染爆発したことでデータが早く収集できたのか、前回のアップデートよりも短い期間だった。今度の的中率は、99%とある。ほぼ100%だ。
80%の確率で恐ろしくて電車に乗るのが苦痛になったのだ。
99%の的中率で陽性者がわかったら、人の多い場所だけでなく、家の近所の道すら歩けなくなってしまう。僕はメガネケースに眼鏡をしまうと、さらに引き出しの奥へと片付けた。
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