冬の曇り空の下。

「もう、終わりにしましょう」

 恋人の疲れきった声に、その隣に座る君はおろおろとした様子で、

「なんとかならないか?」

 引きとめようとする。けれど、恋人は紺のダッフルコートに包まれた小さな体全体をわずかに揺すりながら、首を横に振る。

「もう……限界です」

 絞りだしたか細い答え。君は眉に皺を寄せながら、まぶたをぐっと閉じる。

「なにがいけなかったんだ。できるかぎり気を付けるからさ」

 様子を窺う君の横顔に、恋人はバカにするような眼差しを向ける。

「全部、です」

 その答えに君は一瞬呆気にとられたように目を開いた。

「自分から付き合おうとか言った癖に付き合ってからはろくに遊びに誘ってもくれませんし、私の話に欠片も興味を示してくれない。デートに行ったら行ったで、明らかにいい加減に選んだそれっぽい場所を一緒に歩くだけですし、態度からはこんなもんでいいだろ、みたいな気持ちを隠しもしない。全部全部、不愉快でした」

「そんなつもりはない……と思ってるんだけどな」

 君の声からは、明らかに自信の無さが窺えた。恋人は君をじっとりと睨みつけながら、でも、と付け加える。

「一番、嫌だったのは……どう見ても泰介たいすけ君が、私に興味がないまま付き合ってること」

「…………」

「そんなことがわからないくらい、私がお馬鹿だと思いましたか? 泰介君はただ、だけなんでしょ?」

「…………」

「そんな風に舐められたままで、泰介君と付き合い続けるなんて、とてもじゃないけどできません」

「……そう思うんなら、そうなのかもな」

 答えながらも、君の目には既に諦めの色が浮かんでいる。恋人は険しい眼差しを君の横顔へと突き刺し続けたまま、

「だから、全部。あなたと付き合っていて、幸せな瞬間なんて一度としてありませんでした」

 はっきりとした声音を叩きつけた。君は深く深く溜め息を吐く。

「……悪かった」

「それはなにに対しての、悪かった、ですか?」

「全部だよ」

 君の返答に、恋人はますます蔑みの眼差しを強めた。

「ますます嫌いになりました。ある意味、すごいですね泰介君」

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