Ⅶ
「おっせぇな」
休日の晴れ空の下。君は園内にある電灯に寄りかかりながら、腕時計を覗きこむ。文字盤が十一時に差したところで、君は盛大に舌打ちをした。
「あいつから誘っといて、一時間遅れとかどういう了見だよ」
額には青筋が浮かんでいる。苛立ちをぶつけるように爪先で軽く地面を蹴ってみせた。数度、地面に怒りをぶつけたあと、少し離れたところにある滑り台の方に目を向けた。
色付く紅葉の下。台の上から滑り降りる男の子を、母親とおぼしき女性が下で待ち構えている。
「もう一回やるぅ」
「上るときは気を付けるんだよ」
二人の姿を君は、少しの間、複雑な顔で見つめたあと、再び視線を離した。そして、また時計を覗こうとした矢先、唐突に公園の出入り口へと目を向ける。
長い髪を薄茶色に染めた栞さんがどこかうきうきとした様子で歩いてた。薄緑色のブラウスに白く長いスカートを合わせた彼女は、以前に比べて随分と大人びてる。
君は一瞬だけ栞さんを凝視してから、すぐさま目を逸らした。少し不自然なくらい、幼馴染みの女性が通りがかった公園の出入り口とは真逆にあるブランコの方へ顔を向ける。
「待ったかな」
「ううん……今、来たとこ」
直後にかわされた男性と栞さんの声。君が素早く振り向くと、既に出入り口に女の幼馴染みの姿はない。おそらく、栞さんと男の人の姿は少し歩いたところにある茂みの裏に隠れてしまっているんだろう。
とてもとても楽しそうな世間話からは、栞さんと男性が気の置けない仲だというのがはっきりとうかがえる。君は、そんな二人がいるらしい茂みの裏へと険しい眼差しを送っている。強く歯を噛みしめている間も、二人はこれみよがしに見せつけるみたいに、十分ほど立ち話を続けてから、行方をくらました。
「わっりい、寝坊した。……いや、そんなに怒んないでくれよ」
しばらくしてからやってきた佐藤くんが怯え顔を露にしたあと、
「怒ってねぇよ」
君はとても苦々しげに答える。
「いやいや、その顔、どう見てもブチギレてんだろ。つうか、こえぇよ!」
佐藤くんの大袈裟な身振りにも、君は、怒ってない、の一点張り。その反応は少なくとも公園を出るまでは続いた。
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