Ⅵ
「あっという間だったな」
「そうだなぁ」
黒い筒を手にした佐藤くんと君は、それぞれブランコに座ったままでいる。二人ともこころなしかぼんやりとした顔していた。
「つっても、高校も一緒だから、あんま変わんねぇかもだけど」
「ああ……」
どこかしみじみとした様子の佐藤くんに応じる君には、やっぱり覇気がない。そのぼんやりとした上目遣いの先には、僅かに咲いた白い梅の花。
「高校に入ったら、また思いっきり遊べるといいな。彼女とかできるとなおいい」
「彼女、ねぇ……」
お気楽な佐藤の声に、君は公園の出入り口へと目を向ける。外の道路には人影はない。自然と君の顔に苦笑いが浮かぶ。
「おっ、今更になって卒業が寂しくなったりしたかぁ。なんだっけ。ヘビの目にも涙ってやつかぁ?」
「佐藤うっさい。あと、鬼の目だ」
反射的に伸ばした手で君は肩パンを飛ばす。いっでぇ、と叫ぶ佐藤くんの声が公園中に響き、ベンチに座っている主婦や砂場で遊ぶ子供の視線が、君たちのところに集まった。君はまた公園の出入り口を見たけど、誰も通っていなかった。
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