「あっという間だったな」

「そうだなぁ」

 黒い筒を手にした佐藤くんと君は、それぞれブランコに座ったままでいる。二人ともこころなしかぼんやりとした顔していた。

「つっても、高校も一緒だから、あんま変わんねぇかもだけど」

「ああ……」

 どこかしみじみとした様子の佐藤くんに応じる君には、やっぱり覇気がない。そのぼんやりとした上目遣いの先には、僅かに咲いた白い梅の花。

「高校に入ったら、また思いっきり遊べるといいな。彼女とかできるとなおいい」

「彼女、ねぇ……」

 お気楽な佐藤の声に、君は公園の出入り口へと目を向ける。外の道路には人影はない。自然と君の顔に苦笑いが浮かぶ。

「おっ、今更になって卒業が寂しくなったりしたかぁ。なんだっけ。ヘビの目にも涙ってやつかぁ?」

「佐藤うっさい。あと、鬼の目だ」

 反射的に伸ばした手で君は肩パンを飛ばす。いっでぇ、と叫ぶ佐藤くんの声が公園中に響き、ベンチに座っている主婦や砂場で遊ぶ子供の視線が、君たちのところに集まった。君はまた公園の出入り口を見たけど、誰も通っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る