「そんなんじゃ体がもたねぇだろ」

 やや曇り気味の夕方。公園内のブランコを座り漕ぎ、君への心配を口にする佐藤くん。その身を包むさほど使いこんでいない詰襟は、少しだぼだぼだった。

 佐藤くんと同じように詰襟を着た君は、ブランコを囲む柵の前で腫れた頬を曝しながら、とてもとてもつまらなさげに、どうでもいいだろ、と応じる。

「どうでもよくねぇって。ほら、痛そうなのって、おれ、NGなんだよ」

「……だったらついてこなきゃいい」

 ぶすっとした君。その顔を見た佐藤くんはブランコの上で立ちあがってから、お猿さんみたいな顔を皺くちゃにして笑う。

「つれないこと言うなって。おれとお前の仲だろ」

 媚びるような佐藤くんの声に、君は嫌悪感を露にした。

「ただの同級生だろ」

 君の言葉に佐藤くんは、ひっでぇな、と黄ばんだ歯をむきだしにする。

「友達じゃんか」

「なったおぼえがない」

 うんざりしたように呟く君。佐藤くんは細かく瞬きをしたあと、まあいいや、とどうでも良さ気に口にしたあと、

「これから、時間あるか?」

 と尋ねた。

「あってもお前には使わん」

 先読みしてにべのない答えを返す君に、佐藤くんは、まあまあ、となだめるように口にしてから、ブランコから飛び下り、両手をY字にあげた。

「ゲーセン行こうぜ」

「行かん」

「そこをなんとか」

 すぐ後ろに近付き拝む佐藤くん。君はうんざりした顔をして、

「他のやつと行きゃいいだろ。お前はオトモダチも多いんだし」

 ぞんざいに応じる。佐藤くんは、いやそれがさぁ、と頭を掻く。

「最近、あそこら辺行くとカツアゲされるんだよ」

「……」

「お前、ケンカ強いんだろ。だったら……」

「なんで、俺がお前の用心棒をやらなきゃならんのだ」

「そこをなんとか! おごるからさ!」 

「だから、行かねぇって」

 そんな押し問答を君と佐藤くんは何度も何度も繰り返した。やがて、日が沈みかけた頃、君は、大きく舌打ちをしたあと、ニヤニヤする佐藤くんの横に並ぶ。

「今日だけ、だからな」

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