Ⅴ
「そんなんじゃ体がもたねぇだろ」
やや曇り気味の夕方。公園内のブランコを座り漕ぎ、君への心配を口にする佐藤くん。その身を包むさほど使いこんでいない詰襟は、少しだぼだぼだった。
佐藤くんと同じように詰襟を着た君は、ブランコを囲む柵の前で腫れた頬を曝しながら、とてもとてもつまらなさげに、どうでもいいだろ、と応じる。
「どうでもよくねぇって。ほら、痛そうなのって、おれ、NGなんだよ」
「……だったらついてこなきゃいい」
ぶすっとした君。その顔を見た佐藤くんはブランコの上で立ちあがってから、お猿さんみたいな顔を皺くちゃにして笑う。
「つれないこと言うなって。おれとお前の仲だろ」
媚びるような佐藤くんの声に、君は嫌悪感を露にした。
「ただの同級生だろ」
君の言葉に佐藤くんは、ひっでぇな、と黄ばんだ歯をむきだしにする。
「友達じゃんか」
「なったおぼえがない」
うんざりしたように呟く君。佐藤くんは細かく瞬きをしたあと、まあいいや、とどうでも良さ気に口にしたあと、
「これから、時間あるか?」
と尋ねた。
「あってもお前には使わん」
先読みしてにべのない答えを返す君に、佐藤くんは、まあまあ、となだめるように口にしてから、ブランコから飛び下り、両手をY字にあげた。
「ゲーセン行こうぜ」
「行かん」
「そこをなんとか」
すぐ後ろに近付き拝む佐藤くん。君はうんざりした顔をして、
「他のやつと行きゃいいだろ。お前はオトモダチも多いんだし」
ぞんざいに応じる。佐藤くんは、いやそれがさぁ、と頭を掻く。
「最近、あそこら辺行くとカツアゲされるんだよ」
「……」
「お前、ケンカ強いんだろ。だったら……」
「なんで、俺がお前の用心棒をやらなきゃならんのだ」
「そこをなんとか! おごるからさ!」
「だから、行かねぇって」
そんな押し問答を君と佐藤くんは何度も何度も繰り返した。やがて、日が沈みかけた頃、君は、大きく舌打ちをしたあと、ニヤニヤする佐藤くんの横に並ぶ。
「今日だけ、だからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます