「いいかげんにしてくれないかなぁ」

 夕空の下。滑り台から少し離れたところにあるベンチ。隣に座る栞ちゃんの怒りを浴びた君は呆然としてる。

「あたしにもあたしの付き合いがあるんだから、たいちゃんにばっかりかまけていられないの。なんで、わかんないかな?」

 肩の辺りまで伸びた髪を荒々しく掻き乱す栞ちゃんの前で、君は言葉を失ったまま、ただただ幼なじみの女の子を見返してる。

「たいちゃんとばっかりは遊んでられないの。それくらいわかってよ」

「でも」

 ようやく復活した君は、どこかおどおどした声とともに、上目遣いで栞ちゃんを見つめる。

「最近、一週間に二回くらいしかシオリちゃんと遊べてないし……」

「それで充分でしょう? あたしだって、忙しいんだから」

「けど……」

「たいちゃんも他の友達と遊べばいいんじゃないの。それくらいいるでしょ」

「…………」

 黙りこむ君。栞ちゃんは一転して、気まずそうな顔をする。

「ああ……そっか。いないんだ」

 うつむく君。気の毒そうな目を向ける栞ちゃんは、あたし前から言ってたじゃん、と告げる。

「友達は大事にした方がいいって」

「けど……」

「けどじゃない。あたし以外、友達がいない君がおかしいんだよ」

「ぼくは、シオリちゃんだけいれば……」

 君の弱々しい声。栞ちゃんはわずらわし気な顔をしたあと、大きく溜め息を吐いた。

「前から思ってたんだけどさ」

 一端、言葉を止める栞ちゃん。それから、君の不安そうな表情を一瞥して、

「その、シオリちゃんだけいれば、っていうの重くてうっとうしいんだよね」

 吐き捨てるように言った。目を見開いた君は、信じられない、といったような面持ちで、オモクテ、と復唱する。

「正直、もっのすごくうざかった。おまけに、いつでも自分が一番みたいなたいちゃんの態度もすっごくムカムカしたし」

 君は金魚みたいに口をパクパクさせるけど、言葉は出てこない。反対に水を得た魚みたいに栞ちゃんの唇はよく動く。

「ずっと、たいちゃんのお母さんから頼まれてたから面倒みてたけど、もうそろそろ限界なんだよね」

「たの、まれた?」

 金縛りがとけたみたいに言葉を発する君に、栞ちゃんは、ああ言ってなかったっけ、と薄く笑う。

「昔、たいちゃんのお母さんに、仲良くしてあげてね、って頼まれたんだよ。そうじゃなきゃ、君となんか遊んでないって」

 もっと楽しく遊べるところはいっぱい知ってるしね。

 肩を落とした君は、うわ言のように何度も、噓だ、と呟く。そんな君に、栞ちゃんはほんの少しだけ気の毒そうな目を向けていたけどやがて、じゃあね、と告げて去っていった。後に残された君は、ずっとずっと噓だ、と口にして……

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