第50話 相棒モンスター(番外・ヘリオス視点)


 時は春休みが始まったばかりの頃。




 俺は一人、領地内の山奥に来ている。本邸からは遠い場所で、母の積載シャルジェペンギンに乗せてもらってきた。名はカペラ。この子は大変穏やかで人懐っこく、家族の誰でも運んでくれる。


 家には父が主のペガサスもいるけど、こちらはちょっと気難しい性格の為、乗せてもらうことは少なかった。

 しかし大人しい気質のペガサスだっている。イザナギやリヴァーさん家のペガサス達がそうだ。そういう、イチノが怖がらなくて済むようなペガサスに出会いたいと思っている。


 そう、俺はペガサスを探しに来ていた。


 マックスウェル伯爵領のとある山奥は、ペガサスがよく目撃される場所。父が後にシトロンと名づけたペガサスに会ったのも、この辺りだ。実際、自分の目でも何度か見かけたことがある。ただ、近寄ってきてはくれなかった。

 俺は全属性を包括する光属性なので、そこで弾かれている訳ではないと思う。そう考えると少々気落ちするが、どんなことにも相性はあるのだから諦めてはいけない。


 イチノは海が見える家に住みたいと言っていた。彼女の仕事は場所を問わず、移動が必要な場合にもレグルスがいる。住むところを決める際にまず考慮すべきは、俺の仕事についてだった。

 つまり、王宮内にある魔法省に通いやすいところ。一口に王都と言っても広く、王宮のある中心地域から海までは距離がある。馬車で行くと一時間以上かかるだろうか。毎日通うとなると少々悩ましいのは確かだ。


 飛行魔法で父のようにスピードが出せればいいのだけど、まだそこまではできていない。鍛練はしているものの、そもそも飛行魔法は目立つので日常使いは却下。


 ではどうするかと考えた時、やはり移動系モンスターに頼るのが一番だと思ったのである。


 できれば柔軟な性格とされるペガサス以外のモンスターに会いたいが、遭遇率の低さを思うとペガサスを探すのが妥当だろう。野生の積載シャルジェペンギンや運ぶ猫フォロスキャット、ハヤブサなどは一度も見たことがなかった。


「がぁ」


 山の中を流れる川のほとりを歩いていると、カペラが鳴き声を上げる。振り返ればペチペチと後ろをついてきていた足が止まり、カペラは俺のほうをじっと見ていた。


「どうした、カペラ」


 何だろう。

 何となく視線が俺を通り越しているような気がする。


 と、そう思った時。


「!」


 辺りにさあっと風が吹き、巨大な魔力を持つ何かが現れたのを察した。


 この感じ、よく似ている。

 しなやかで強い風属性の魔力。


(ということは…)


 カペラが見つめるほうへ顔を向けてみる。


「みゃー」


 そこにはイチノの相棒レグルスよりも高い魔力を携えた、一匹の猫がいた。




 レグルスに似た体型の猫は、全身クリーム色のようなごく薄い茶色をしている。その猫は尻尾をゆっくりと振り、トコトコとこちらに歩いてきた。


「みゃー」

「君もお菓子が好きかい?」


 思わず笑みを浮かべ持参していたクッキーを差し出すと、猫はほとんど躊躇わずそれを食べ始める。あっという間に無くなっていくクッキー。イチノに倣い、持って来ておいて正解だったと嬉しくなった。



 イチノがレグルスに出会ったのは、イチノが十歳くらいの頃だという。庭に現れたレグルスを普通の猫だと思い、持っていたクッキーを全部あげたそうだ。そして「レグルス」と名づけ、暫く一緒に遊んだとか。

 その時はいつの間にか居なくなってしまったが、数年後また庭にレグルスが顔を見せる。時間は経っていたけどすぐに思い浮かんで名を呼んだら、寄ってきてくれたとのこと。その時もお菓子を持っていたのであげたところ、魔法で乗り物を創り出したのでフォロスキャットだと判明した。

 その場にはニノもいて、一緒にレグルスに運んでもらって領地内を散策したらしい。


 それからレグルスはずっとイチノのそばにいる。

 因みにレグルスは雌だ。



 で。

 今日の俺の目的はペガサスだった訳だが、イチノのその話を参考にお菓子を用意していたのである。


 クッキーを平らげて満足そうな猫に手を差し出せば、猫はするりと俺の腕の中に落ち着く。その体を撫でると、猫は気持ち良さそうに「みゃー」と鳴いた。

 この子がこのまま俺についてきてくれるだろうことは、言葉が通じなくとも分かる。ちょっと失礼して確認してみると、この子は雄だった。レグルスと恋人になったりするだろうか。


「名前は何がいいかな」


 イチノは何となく浮かんだだけで当時は知らなかったそうだけど、「レグルス」は星の名前だ。そういうところが、彼女は本当に不思議な人だと思う。


「決めた。君は今日からポラリスだ。よろしくね」

「みゃー」


 まっすぐに目を合わせて微笑むと、ポラリスは頷くように返事をしてくれた。




 <番外・了>


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