第48話 神様再び
いつかも立っていた、真っ白い霧の中のような場所。
体が軽く、ふわふわしている。
そして目の前には再び、虹色の光の玉が浮いていた。
――――パン、パン、パン!
どこからかクラッカーのような音がして、色とりどりの紙吹雪が降ってくる。
「おめでとう! 『虹色の恋☆魔法マスター』略して『ニジマス』を見事クリアしたのう」
「神様…」
久しぶりに聞いた声だったが、それが神様のものであることはすぐに分かった。
「まだ大団円のエンディングシーンは残っとるが、山場は超えとるから立派なハッピーエンドじゃ」
「!」
エンディングシーンが残ってる、ということは。
「私、死んだ訳じゃないんですね?」
「勿論じゃ。ゲーム内容が終わろうと、ニジマス世界もお主も健在じゃよ」
「そうなんですね。良かった」
前世の記憶を取り戻してから、こんな風に神様に会うのは初めてだ。もしかして知らないうちに死んでしまったのかと思ったが、違ったようで安心する。
「私は特に何もしてませんが、労いに来てくれたんですか?」
「うむ。本来なら人生の途中で言葉を交わすことはせんのじゃがのう。少々事情があってな。詫びに来たというのが正直なところじゃ」
「詫び?」
「
神様のその言葉に、私は目を瞠った。
問題は魔女が発した台詞だ。違和感しかなかった。その理由が神様にあったということだろうか。
「まるで攻略本を読んでたみたいに感じました」
「その通りじゃ。実はのう…」
そうして神様に聞かされた真相は、想像を遥か超えるスケールだったのである。
世界は一つ生まれる度、そこから幾つもの派生世界が広がっていくものらしい。
その途中で別の世界と繋がりを持ったりもしながら、宇宙は果てしない膨張を続けている。そしてそんな宇宙は、限りなく存在するそうだ。
冒頭から早くも理解の容量を超えそうだが、私は懸命に耳を傾ける。
まず、このニジマス世界からの派生世界は既にある。そこから更に遠く遠く広がった先の一つに、「虹色の恋☆魔法マスター」が乙女ゲームとしてプレイされている世界があった。その世界で乙女ゲーム「ニジマス」に没頭し、ニジマスの世界に行きたいと強く願ったとある少女が、あの
次に、ニジマス世界が歩みを進めるうち、独裁国家アルケケンジ国が異世界から救世主を召喚しようとし始める。ニジマスに異世界転移設定はないので試みは常に失敗していたけど、野望に燃えるアルケケンジ国は諦めなかった。
ニジマス世界に行きたい少女と、異世界から救世主を呼びたいアルケケンジ国。
二つの願いはかなり引き寄せ合ったが、それでも宇宙から見れば全く縁はない。
しかしそんな折、別の神様がやらかした。
うっかり誤って、少女を引かれ合っていたアルケケンジ国に飛ばしてしまったのである。通常なら弾かれるはずが上手いことすり抜けてしまい、少女はアルケケンジ国に救世主として召喚された形となった。
平謝りする別の神様。肉体を伴う転移には当人の希望が多少なりとも必要で、ニジマス世界から出る気が全くない少女を元の世界に帰すのは難しかった。別の神様は何度も少女に夢の中で帰還を勧めるも、聞く耳を持ってもらえない。
ニジマスの神様は仕方ないと様子を見ることにする。完全な強制転移は最終手段であり、相当な非常事態でなければ本人の意思が優先されるらしかった。
少女は救世主と崇められ、国家元首一家と同等の扱いを受けて天狗になる。悪役令嬢もびっくりの傍若無人ぶりを披露し、悪政にも嬉々として加担した。
とはいえ、彼女の目的は最愛のニジマス攻略対象フレイ王子に会うこと。少女は我儘放題しながらも、シルフィード王国に行きたいと要求し続ける。
それを宥めるアルケケンジ国元首は、少女に救世主にあるべき能力がないことを早々に見破っていた。ただ、異世界人としての利用価値は高い為、ヒステリックな少女をのらりくらりとかわしつつ国内に留めさせる。
そんな生活が続く中で、少女の鬱憤はついに爆発した。
その時、ネガティブエネルギーの塊が待ってましたとばかりに襲いかかる。
しかしネガティブの塊に取り込まれた少女の怨念は凄まじく、
すなわち決まった頃合いにエイヴァン魔法学園の指定場所に出現し、ヒロインと戦う必要がある。現れた直後にクリスタルさんに近づいたのは、いわゆるゲームの強制力に抗えなかったのだろう。
「そういう訳で、予想外の魔女となってしまったんじゃ。すまんかったのう」
「少女はどうなったんですか?」
「
「それは…」
あんまりなのではと思ったが、上手く言葉が続かなかった。
「神の言葉に耳を貸さず、ニジマスの世界に残ることを自ら選んだ。その行く末も本人の意思であり、我々が手出しするところではないんじゃよ」
神様の言っていることは分かる。
少女にはちゃんと選択肢があった。
「ロゼッタ嬢の事情を知ってるみたいでしたが、あれは?」
「負のエネルギーから読み取ったんじゃろうな。そしてそのエネルギーを吸い尽くせばヒロインに勝利し、自由になれると踏んだんじゃないかのう」
「そうですか…」
私は何とも言えない気持ちになり、視線を下げた。
「さて、そろそろ朝が来るぞい。ニジマスの第二部ができたらまた攻略本を届けるからのう」
「第二部!?」
がばっと顔を上げて声を荒げるも、光の玉から表情を読むことはできない。
「乞うご期待じゃ。ふぉっふぉっふぉっ」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってください」
そう訴えながら私は、意識が遠のいていくのを感じる。
えっ何、待ってマジで。
まだ聞きたいことが沢山あるんですけど!?
「これからの人生も、健やかに楽しく過ごすんじゃぞ」
私の心の叫びは聞き流されたが、神様のそんな優しい声が耳に届いた。
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