第46話 決着


 黒いモヤが喋った。

 これが瘴気の魔女ミアズママギサの声なのか。


「な、何よこれ」


 驚きに茫然としていたロゼッタ嬢がモヤを見つめ、かすれた声で問う。


「分かりません。でも良くないものなのは確かです。危ないので早く逃げてください」

「お前は何者だ。何故彼女達を狙う?」


 クリスタルさんがロゼッタ嬢を庇うように立ち、アキくんがモヤに対峙する。


「うるせぇ、元平民の騎士はすっこんでろ。フレイ王子を選ばないなんて信じらんない」


 …………うん?


 今、何だかとっても奇妙な言葉が聞こえたけど、気のせいかな。


「まあいっか、フレイはあたしのものだし。ちょっとそこの悪役令嬢もどきの子、こっちにおいでよ。ヘリオスに失恋したんでしょ? あたしに協力してくれたら彼とラブラブにしてあげるから」


 ちょっと待て、やっぱりおかしい。

 今、悪役令嬢って言ったね?


 現世にそんな言葉はない。しかも「もどき」って。まるで悪役令嬢はローズマリー嬢と知ってるみたいな口振りだ。瘴気の魔女ミアズママギサってマジで何者。


「あ、悪役令嬢って何よ。誰がこんな気味の悪いモノに協力なんて…!」


 ロゼッタ嬢は喋る黒いモヤにそう返すが、何となく覇気がない。


 もしかして迷ってるのだろうか。だとしたらヤバイ。これは完全に魔女の罠だ。さっきクリスタルさんの攻撃で少し力を失ったから、元々狙っていたロゼッタ嬢から早く沢山のエネルギーを吸いたいのだろう。はっきりと人の形になった黒いモヤは、仮面のような笑みを顔に浮かべている。


「アキくん、バッソー様をお願い」

「イーリス!」


 クリスタルさんがアキくんの前に出て、両掌を魔女に向けて構えた。ありったけの治癒魔法を注ぐつもりだろう。私でもその魔力の集中を感じる。


 ヒロインの勝率は99%。この一撃で勝利が決まるはずだ。

 でも、悪役令嬢は?


(ヒロインが勝つことと悪役令嬢の無事はイコールじゃない)


 だからずっと神社に参拝し続けてきた。

 主役達の様子に一喜一憂してきた。


 今ここに、その結果が現れる。私の目の前で。



 ――――間ぁにぃ合ぁえぇえぇぇぇ!!!!


 私は走り出していた。ロゼッタ嬢のもとへ。



 クリスタルさんが魔法を放つ寸前、瘴気の魔女ミアズママギサのモヤがロゼッタ嬢めがけて細く凄まじい速さで伸びてくる。そこにロゼッタ嬢を押し倒す勢いで突っ込んだ私は、彼女を抱きしめて力一杯の風魔法でバリアを張った。


 次の瞬間、目を閉じていても分かるほどの明るさを感じる。


 そして。


「ぎゃああああああ!!!」


 かろうじて瘴気の魔女ミアズママギサと判別できる、おぞましい叫び声が聞こえてきた。


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