第41話 隠しキャラ
もうすぐ年の瀬の冷え込む季節。
その日は偶然、鉱物オタク仲間のカリスさんに出会った。
「おや、久しぶりだね。イチノ君」
カリスさんとは時々手紙をやり取りしていて、互いのコレクションや流通する石についてなどを語り合ったりしている。しかしなかなかタイミングが合わず、会う機会は少なかった。
「こんにちは、カリスさん。ご無沙汰しています」
「今日は一人なのかい? ヘリオス君は?」
そういえば、カリスさんと会う時はいつもヘリオスくんが一緒だった。加えて今は婚約者であり、その報告はカリスさんにもいち早く済ませている。言われてみると私も、カリスさんがいてヘリオスくんがいない状況が、何だか不思議に思えた。
「ヘリオスくんは用事がありまして、後で会う予定です」
本日の彼の予定は、クリスタルさんに魔法を教えること。それが終わったら、いつもの林に来てくれる。
「そうなんだね。今は君もすっかり有名人だから、一人でいる時は気をつけるんだよ」
「はい、ありがとうございます。お守り持ってますので大丈夫です」
例のお守りハンカチは、眼鏡並みに体の一部となっていた。
「それはヘリオス君が?」
「防御魔法がかかっていて」
頷いて答えると、カリスさんがふっと笑みを深める。キラキラが眩しい。この人も相当な美形だ。王太子殿下を除けば、最も優雅で品がある美しさだと思う。顔立ちがやや中性的なのも、そうした印象に拍車をかけている。
「なるほど、流石だね。また二人でうちに遊びにおいで」
「はい、是非。ヘリオスくんにも伝えておきますね」
そうして別れの挨拶に入ろうとした所で、後方から知らない声が響いてきた。
「やあ、カリス。君が女の子といるなんて珍しいね」
「誤解を招くような言い方は止めておくれよ、ロキ。こんな所で何をしているんだい?」
声のほうを振り向きながらカリスさんの応答を耳にし、私はぎくりと身を緊張させる。話は頻繁に聞いてるし、姿を目にしたこともあった。しかし実際に話したことはなく、近づいたこともない。
振り返ったことを後悔しつつ、カリスさんに声をかけた相手を見やる。そこには友人ネフェリンが親しくする二年生、ロキ・チェイサー侯爵令息がいた。
「何でもないよ、ただの通りすがりさ。貴方はネフェリンの友達のイチノさんですね。初めまして、ロキ・チェイサーと申します」
「あ、はい。お初にお目にかかります、イチノ・シーリオと申します」
チェイサー様はカリスさんと気安く言葉を交わし、スッとこちらに視線を移す。何となく見定められているみたいで、私は僅かに後ずさりして挨拶を返した。
遠目で見た時から思ってたけど、眼光鋭くないですか。
凄いイケメンなのが余計に怖い。
「それっていつもロキに会いに来る子のことかい?」
「そうだよ、ツインテールの可愛い子」
あっ、可愛いって言った。
「へえ、イチノ君の友達だったのか」
「はい。カリスさんも、チェイサー様とお知り合いだったんですね」
カリスさんが会話に加わってくれたことに安堵しつつ、尋ねてみる。
「ああ、同じクラスなんだ。よく話すほうだと思うけど」
そう言ってカリスさんに目を向けられると、チェイサー様は微笑んで「そうだね」と頷いた。二人の仲は良好らしい。
「僕のことはロキでいいですよ。ネフェリンは貴方とアサヒさんと友達になれて良かったとよく言っています。これからも彼女の味方でいてあげてください」
「! はい、勿論です。こちらこそ、あの、よろしくお願いします」
ネフェリンを、と言いそびれたコミュ障の私だったが、ロキ様は理解してくれたようだった。
正直彼の底知れぬ雰囲気は苦手だけど、ネフェリンを大事に思ってくれている。
それが分かっただけでも、収穫だと思った。
◇
ロキ・チェイサー。魔法属性は土、魔力は強+。
代々「忍」を担う家系の生まれ。侯爵家。
その実力は実妹のライラ共々、飛び抜けて優秀。
「なにこれ」
その晩、久しぶりに攻略本を開いた私は思わず呟いた。これまで「隠しキャラ」の頁は空白だったのに、何故かそこに情報が足されていたのである。
いやいや、どういうことなの。誰が書いたの。
誰って神様に決まってるけど、このタイミングは何なんだ。
教えてくれるならもっと早く教えてくれればいいのに…!
(って、そうか。私がロキ様と喋ったからか)
彼と相対したのは今日が初めてだ。直に接したことで、隠しキャラに辿り着いたと見なされたんだろう。しかしちょっと攻略本を見てみようと動いたことすら、予定調和のようで背筋が寒くなる。
ん? 待て待て、何だこの流れ。
まるで私がヒロインみたいじゃないか。
いや、攻略本を持ってるプレイヤー(?)だからか?
ああもう、何が何だか。相変わらず攻略対象なのにクリスタルさんとは縁遠そうだし。まあ、変な人じゃないのが確定したのは安心した。
というか「忍」の部分が気になって仕方ない。これってよくある、国の隠密任務を遂行するキャラだよね。漫画とかだと「影」や「暗部」って言われてたりしたと思うんだけど、まさかの忍者ですよ。この世界の日本要素の濃さが凄い。まさしく、神様が私を参考にしたことを物語っている。
ただ、そんな忍者が何故ネフェリンに近づいたのだろうか。
可愛いって言ってたから、単純に好みだったのならば問題ない。けど。
何となく、忍者的な理由もあるような気がしてならなかった。
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